第13話 主人公-13

 朝夢見は、近くにいた中沢に、ショートの選手の名前を聞いた。

「あいつ?あいつ、林だよ」中沢

「ありがとう」あゆみ

怪訝な顔をしている中沢を後にして、朝夢見は林に近づいた。守備練習を終えて、ファールグラウンドに出て声を上げている林の後ろに近づくと、穏やかに声を掛けた。

「ね、林君」

急に名前を呼ばれて驚いた林は、振り向いたそこに朝夢見がいるのを見て、一層驚いたようだった。

「はい…、なんですか?」

「あのね、ちょっと、相談があるんだけど、いいかな」

そう言うと、朝夢見は林をグラウンドの隅へ呼んだ。

「実はね、こないだからずっと、あなたの才能に注目してたの」

「はい?」

「あなたの筋肉は、他の人とは随分質が違うわ。変な言い方かもしれないけど、モノが違うの。それに、バランスがすごくいい。まだ、鍛え方は足りないけど、すごくいいモノを持ってる」

「…はぁ」

「それでね、あなたさえ良かったら、の話なんだけどね、よかったら、あたしと仙貴であなたを特訓したいの」

「はい?」

「あなたの素質は、たぶん、直樹さん以上のモノがあると思うの。あたしたちに、任せてみない?」

「は、はぁ…。そんなこと、急に言われても…、僕なんか、才能あるんですか?」

「あたしの見立て違いかもしれない。でも、きっと、すごい才能があるわ」

「…そんな」

「ただ、特訓、っていっても、並大抵じゃないわ。あたしや仙貴を見ればわかるでしょ。身体機能を限界まで引き出すような、そんなトレーニングよ。でも、怖がることはないわ、あたしが由起子先生に鍛えられたのと同じ方法でトレーニングするから」

「…由起子先生」

「あの先生も、かなりのバケモノでしょ。あたしはその弟子。仙貴もバケモノだから、あなたもバケモノになるのよ。でも、あたしたちとは、きっと違うバケモノになるわ。直樹さんみたいなのかな」

「僕も、直樹さんみたいになれるんですか?」

「たぶん」

「…それなら、やってもいいけど」

「でも、とんでもなく辛いわよ。やってみてもいい、なんて軽い気分だと、逆に身体がバラバラになるかもしれない。本気でやる気ある?」

「…ぅうん」

「男の子は、はっきりする」

「はい。やります」

「もっと大きな声で!」

「はい、お願いします!」

 朝夢見は穏やかな微笑みを見せた。そして、離れて見ていた仙貴にVサインを送った。それを見た仙貴はゆっくりと近づいてきた。林は、恐々としながら、二人を見つめた。朝夢見も仙貴も穏やかな表情で林の前に立った。

「じゃあ、明日から頑張りましょう。キャプテンには別メニューをするって頼んでおくから」

「は、はい…。よろしくお願いします」

楽しそうな朝夢見と仙貴とはうらはらに、林は不安で一杯だった。

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