第9話 主人公-9

           *


 マンションの共同のキッチンで、料理をする朝夢見と、それを手伝うしのぶと未来ミキが話をしていた。

「へぇ~、仙貴君も」ミキ

「うん、すごかったのよ。あゆみさんも、仙貴さんも」しのぶ

「たいしたことないって」あゆみ

「ま、そりゃそうでしょうね。あゆみちゃんにとっては」ミキ

「どういう意味?」あゆみ

「だって、ファントム・レディの体力なら、そのくらい簡単なことだもんね」ミキ

「?」しのぶ

「まぁ、あんまりやったことなかったけど、やってみると野球っていうのも、けっこう面白いわよ」あゆみ

「あれだけできたら、面白いわよ」しのぶ

「あたしも、やってみようかな」ミキ

「ミキちゃんも?」しのぶ

「うん。だって、あたしもこのマンションに住むようになったら、通学時間が短くなって、暇なんだもん」ミキ

「いいかもしれないわね」あゆみ

「でも、ミキさんも、ファントム・レディ…だったわよね?」しのぶ

「まぁね」ミキ

「じゃあ、朝夢見さんみたいなの?」しのぶ

「さぁ。やってみないと、わかんないけど。大体、あたし、野球よりサッカーの方が好きなのよね。だけど、サッカー部は入れてくんないし、もし、入れてくれても、そんなことしてたら、晃二君に嫌われちゃうかもしんないし」ミキ

「自分よりも、カレの目が気になる年頃ね」あゆみ

「愛球会だったら、大丈夫なの?」しのぶ

「だって、あゆみちゃんがいるじゃない。あたしなんか目立たないわ」ミキ

「人をバケモノみたいに」あゆみ

「あら、立派なバケモノじゃない。ね、しのぶちゃん」ミキ

「…ぅん」しのぶ

「あぁ、しのぶちゃんまで、そんな風に言うの?裏切り者ぉ!」あゆみ

「ホントのことじゃない」ミキ

「あ、でも、カッコいいよ。すごく」しのぶ

「はいはい、フォローありがとう。できたわよ。お皿用意して。それと、仙貴呼んできてよ」あゆみ

「はーい。しのぶちゃん、仙貴君呼んできて」ミキ

「え、あ、あたし?」しのぶ

「うん。なにか?」ミキ

「ん…、別に。行ってきます…」しのぶ

「どうしたんだろう」ミキ

「さぁ」あゆみ

 階段を上がって、仙貴の部屋の前に立った。軽くノックをした。が、力を加減しすぎて変な音を鳴らせてしまい、しまったと思った。やり直そうかと思っていると、ガチャリと音がしてドアが開いた。のっそりと仙貴が顔を突き出した。

「ん、なに?」仙貴

「あ、ご飯、できたって」しのぶ

「ありがとう、すぐ行くよ」仙貴

仙貴はにっこり微笑んでまた部屋に入った。しのぶは、顔が火照るのを感じながら、階下の台所へ戻った。

「どうだった?」あゆみ

いきなり朝夢見に声を掛けられて、一瞬自分の顔の火照りが気になり少し俯きながら、しのぶは、答えた。

「あ、すぐ、来るって」しのぶ

「そう」あゆみ

朝夢見はしのぶの様子に気づいていないようだった。未来もしのぶに目を向けず、食卓の支度をしていた。しのぶは、ほっとして、

「あ、なにか、手伝おうか?」と言って、朝夢見に近づいた。

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