怪異より尚おぞましきは人の所業

 事故によって知能に障害を負ってしまった女と、その責任を取って彼女と結婚した闇医者の男が、「人魚さま」に呼ばれるお話。
 ゴリゴリのホラーです。いかにもメルヘンチックな「人魚さま」の話に対して、でもどうも〝何かが違う〟ような不気味な怪異。おぞましい何かがじわりと日常を侵食してくるかのような、その描写というか展開のさせ方が本当に強烈でした。じわじわ迫ってくる感じでありながら、もうどうやっても目を背けることができない怖さ。
 この辺のホラーとしての主食的な部分、「人魚さま」という名の人ならぬ何者かの造形(と、その語られ方)も魅力的なのですけれど、でも本作最大の魅力はむしろ人間の方です。
 特に主人公のヤミイチさんが好き。中盤以降、一個の人間としてはともかくキャラとして好き——と、そんな「ともかく」なんて留保がついちゃう彼の、その一人称視点で描かれているところ(=それによって伏せられているもの)が最高でした。
 彼以外の登場人物たちの絶妙な生々しさや、そこに感じる不思議な魅力、なによりその境遇というかどうしようもない現実としての日常、等々。人間周りのドラマだけでたっぷりいい出汁が出ていて、さらにその上から一太刀ぶっささってくるかのような「人魚さま」だからこそ迫力のある、ぶっとい読み応えのホラー作品でした。実際、気づいたらぐいぐい読まされちゃってました。強烈!