第17話  黒乃姫奈の完璧?なる計画

「お父様、お話があるのですが……」

「おお、なんだい?」



 家に戻った私は帰ってきた父の部屋を訪れた。彼は私の顔を見ると一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに顔を引き締める。その様子で父が私が何の話をしに来たのか気づいているという事を察する。ならば、話は早い。



「お父様に我儘をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「可愛い娘の言う事は聞いてあげたいのだけどね……一夜君の事だったらあきらめなさい、彼が自分で姫奈と一緒にいたいというのならともかく、無理やり彼と一緒にいようとするのは違うんじゃないかな?」

「さすがですね、お父様……、つまり、彼が自分から私と一緒にいたいというなら問題はないという事ですね」

「ああ、そうなるね、でも、彼は自分の意思で出て行ったんだよ」



 怪訝な顔をするお父様の言葉に勝利を確信した。言質はとった。私はにやりと笑みを浮かべる。恋愛の駆け引きは苦手だが、こういう駆け引きは学校生活や、お父さんのお仕事を習っているうちになれた。そして、奥の手を持っている以上私に負けはない。



「それではお父様、私が一夜を説得するのに協力をしてはいただけないでしょうか? 必ず、彼にもう一度屋敷に戻ると言わせて見せます」

「悪いがそれはできないな、彼は自分の意思で出て行ったのだ。ここで私が君に協力をするのはフェアじゃないだろう?」

「そうですか……」



 私の言葉に父は首を横に振る。ええ、そうね。お父様の言う事はもっともよ。でも、私はもう一度一夜の気持ちを知りたいの。彼とちゃんと話したいの。だから私はスマホを掲げて、動画を見せる。



『ほらほら、いいじゃないか? キャバクラ何てみんないっているよ。今日はゆっくり楽しもうじゃないか』

「んんん!!! まて、姫奈……これはどこから……」

「さあ、どこでしょうね、それはそれとして海外にいるお母様ににそろそろ近況報告をするのですが……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」



 これは善意の協力者に送ってもらった動画だ。父がだらしない顔をして、部下とキャバクラに行くのが映っている。私は情けない顔をして頭を掲げている父に再度笑顔を浮かべてお願いをする。



「それで……お父様、協力していただけますよね?」

「ああ、くそ……油断していた……それで……何をすればいいんだい? やはり血は争えないのか……」



 そういって何やら呻いている父に私はいくつかお願いをするのであった。後は彼女のシナリオの通りにやるのだ。私は気合をいれる。今こそ頑張るのよ、姫奈、私ならきっとできるもの。だって、彼を思う気持ちはまけないのだから。





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 父から一夜に電話をしたという合図のメッセージが飛んできたのを確認して、私は深呼吸をする。そりゃあ、私だってまちがっているってことくらいわかっているわよ、もっとちゃんと、彼を引き留めておけばよかったとか、彼に素直になればよかったとか色々と反省することはあると思う。だからこそ今回こそ後悔しないように行動をするんだから。

 私は意を決してノックをする。少し遅れて足音と共に扉が開かれて驚いた顔の一夜が見えた。二日ぶりに見る彼の顏に愛おしさが止まらなくなる。



「姫奈……?」

「お願い一夜……私をかくまって……」




 私の言葉に彼は困惑しながらも部屋に入れてくれたの。そして、私のバカみたいに多い荷物も持ってくれる。そういうさりげない優しさが本当にずるいと思う。

 そして、私は彼は私に紅茶を淹れてくれながら話を聞いてくれる。久々の実家にいるからか、屋敷ではないからか、私が弱気な事を言うとチョップをしてきた。それはまるで昔の様で……



「何をするのよ、ちゃんとセットしてるのに乱れるでしょう」

「全く何を言っているんだよ、迷惑なわけないだろ。姫奈が俺を頼ってくれたんだからさ」

「……ありがと……」



 ツンツンとした口調になってしまったけど、本当に嬉しかったのよ。私は頭を撫でながら彼を睨むが、内心はほっとしているのだ。よかった迷惑そうじゃなかった……彼はお父さんが心配していないか不安なようだが、それに関しては心配はない。お父さんも快く納得してくれたもの。



「じゃあ、泊めてもらうお礼に料理をふるまってあげるわ。私の手料理を食べれるなんてあんたくらいなんだからね」

「え、食えるもの作れるの? いえ、冗談です。姫奈様の手料理楽しみだなぁぁぁ」



 私は無理やりな理由をつけて彼に手料理を披露することにする。案の定心配そうな顔をされたので、私は彼を睨みつける。そうよね、あなたに最後に料理を振舞ったのは中学の調理実習ですもの。生まれ変わった私を見て驚かせてあげるんだから。みてなさいよと私が彼を見るとなぜか、無茶苦茶怯えた顔をされた。ちょっとひどくないかしら?



「あれ……ちゃんとできてる?」

「ふふん、当たり前でしょう、私だって花嫁修業くらいしているのよ」



 私が慣れた手つきで野菜をきっていると彼が驚いた顔をした。当たり前でしょう、一生懸命頑張ったんだから。私と付き合えばいつでも料理くらいしてあげるんだからね。などと思いながら会話をする。



「姫奈にばかり料理をさせるのは悪いから俺もなんか作るよ」

「いいのに……でも、こういうのをしていると昔やったおままごとを思い出すわね。あの時は私の旦那さんになるって譲らなかったわよね」



 話の流れで昔の話題になる。あの頃はよかったわよね、身分とか気にしないで一緒にいれたもの。よくおままごとをしたものだ。覚えている? 私ね、あの時にあんたがおままごとで結婚してくださいっていってくれたので嬉しかったのよ。その日はずっとニヤニヤしてて寝れなかったのよ。



「確かに最初はそうだったけど、姫奈だって俺のお嫁さんになるーって言って聞かなかったじゃないか。一回使用人さんが俺のお嫁さん役になったら一日中不機嫌そうに頬をふくらませてたじゃん」

「あー聞こえない聞こえない!! 昔の事をいつまでも言うなんて器の小さい男ね」



 苦笑しながらいう彼だけど、仕方ないじゃないの。私と結婚するって言った口で他の女にプロポーズなんて許さないんだから!! その時の自分を思い出して恥ずかしくなった私はさっさと料理を作ってテーブルに並べる。

 彼に料理を披露した私は先にお風呂に入った。シナリオに書いてあった内容を思い出して私は赤面しちゃったわ。でも、一夜をメロメロにするためですもの。




「一夜ー!! ごめんなさい、バスタオルを貸してもらえるかしら」



 シャワーを浴びたタイミングで彼を呼ぶ。曇りガラス越しで、後ろ向きとはいえ彼に裸を見られるのだ。羞恥と緊張で顔が真っ赤になっているので顔が見えないのを本当に感謝する。扉が開く音がして彼がやってきたのがわかる。なるべく多い時間魅了しろって言われてるので何とか時間を稼がないと……



「開けるよ、ここに置いておくな」

「ええ、一夜……その、ありがとう」



 とっさに出てきたのはお礼の事だった。ああでも、ちゃんとお礼を言えてなかったのよね。私はこれまでの感謝を込めて伝える。私はね、一夜に本当に感謝しているの。だからあなたが望むならなんだってしてあげるわよ。その……エッチなことだって付き合ってくれるなら少しくらいならいいんだから。私は自分の気持ちを込めていう。



「そう……本当にあんたってやつは……その……一夜もなんか私に我儘を言ってもいいのよ。よっぽど変な事じゃなければ……」

「いや、大丈夫だよ、母さん」

「え? 母さん? ごめんなさい、ちょっとママになれっていいうのはマニアックスすぎて……」



 思ったよりもすごいのがきたぁぁぁぁぁぁぁ、え、ごめんなさい、ママになれってちょっとハードルが大きすぎないかしら? ああ、でも一夜は子供の時に両親が離婚してお母さんを失っているんだ。母性をもとめているのかもしれないわね。どうすればいいかしら……ああ、でも私が一夜のお母さんになれば彼は甘えてくれるのよね、ちょっと嬉しいし、最高じゃないかしら?

 着替えてリビングに向かう前に少しルームウェアの胸元を緩める。恥ずかしいけど、きっと彼は母性を求めているはずだから……




「私があなたのお母さんよ!! その……甘えていいのよ?」

「いや、マジで何言ってんの?」



 意を決して言ったのに、なぜか彼は引いて様子ででていってしまった。勇気を出したのに……一夜のばかーー!!

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