第41話  ホラー?紙袋のほうが怖いよね

「ううう…作戦が速攻で暗礁に乗り上げた…」




 それ以前に最初から泥舟のうえに、そこに穴が空いてたくらいにガッバガバな作戦だったと思うぞ。


 まぁ追い討ちをかける意味もないから言わないが。


 花梨本人の自爆すぎて、可哀想とも思えないのはある意味すごいとすら思う。




(とはいえ、助け舟くらいは出すとしますか)




 ここでふたり並んで突ったっていても仕方ないし、なによりまだ映画を観るつもりというなら、上映時間は刻一刻と迫っている。


 既に上映するスクリーンは開放されているようで、ちらほら件のホラーを観るべく入場している人の姿が垣間見れた。




(まぁそれでも人の流れは他の映画と比べて少ないけどな)




 内容が内容だけに、やはりそこまで人の出入りは多くないようだ。


 混雑はしなそうだし、焦ることもないとは思うが、俺は映画を観るときはできればさっさと席に座ってのんびりスクリーンを眺めて待っていたい人間である。


 飲み物なりも買うというなら、このへんが頃合だろう。




「それでどうする?まだ観るっていうなら、そろそろ入場したほうがいいと思うぞ」




 促すように花梨に目を向ける。


 最終的な判断は任せるつもりだったが、花梨はゆっくりと口を開いた。




「……観る。入ろ」




「いいのか?」




「ここまで来て引けないもん…空気悪くなりそうだし、そんなの嫌だもん…」




 いや、めっちゃ渋々じゃん。


 不満アリアリって顔してるぞお前。




「わかった。なにか飲むか?それなら買ってくるけど」




「……コーラ。でも、ひとりで先に行きたくない。買うなら一緒にいこ」




 俺の返事を待たず、花梨はまたも俺の手を握る。




(別に空気悪くなるなんてことないけどな)




 そんな流れにはしないし、したくない。


 なんだかんだ、花梨といる時間が俺は嫌いじゃないんだ。


 ただそれを言うと、また調子に乗るのは目に見えてるから絶対言わないと決めている。




(ただ、ホラーねぇ…)




 紙袋を被った神様が追いかけてくる以上の恐怖を、果たして味わうことが出来るんだろうか。


 記憶の上塗りが出来る可能性に、期待半分諦め半分の心持ちで、俺は花梨とふたり並んで売店まで歩いて行った。












『ンゴォォォォォォォッッッ!!!!』




 暗闇に染まった空間に、大音量の絶叫が響き渡る。




「ひぇっ…」




 同時に、隣の席から聞こえる小さな悲鳴。


 握られている手もギュッと力が篭められており、僅かに汗ばんでいる。




「おい、大丈夫か?」




 周りに聞こえないよう、俺は小さく声をかけた。


 映画が始まってから一時間近く経っているが、未だスクリーンの向こう側で起こっている心霊体験に慣れていないようだ。




「だ、大丈夫大丈夫…」




 コクコクと小刻みに頷くも、ちっとも大丈夫そうに見えない。


 視線はスクリーンに釘付けで、こっちも見る余裕もなさそうだ。




「無理するなよ」




 とはいえ、これ以上話しかけるのはマナー違反だろう。


 本人がこう言ってる以上、無理に連れ出すのも良くない。




『ンゴォォォォォォォッッッ!!!!ンゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッッッ!!!!』




 仕方ないので俺もスクリーンに目を向けるも、とにかく悲鳴が五月蝿くて、あまり集中できる気がしなかった。




(というか、あまり怖くないな…)




 別にホラーが好きってわけでもないし、特別怖がりでもないつもりだが、それでも思った以上にビビっていない自分に少し驚く。




(やっぱあの紙袋神のせいなんだろうな…)




 現実と夢でガチのホラー体験をしたせいで、無駄に耐性ができてしまったのかもしれないな。


 まぁ紙袋の張本人がビビってるのはどうかと思わなくもないが、こうして冷静でいられるのはそう悪いことでもなさそうだ。




「ぅぅぅ…」




 とりあえず何度も俺の手を握ってくる幼馴染の手を、握り返すことくらいはできるしな。

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