第27話 幼馴染、現れる

「デートぉ?」




「そう、デート!私たちふたりの初デート!!」




 やたらデートを強調してくる神(自称)に、俺は胡散臭い眼差しを送っていた。




「はぁ、デートねぇ…」




「え、なにその反応…もしかして嫌なの?」




 俺のつれない反応を見て不安に思ったのか、おそるおそる探るように神(自称)は聞いてくるが、別に嫌ってわけでもない。


 休みの日に花梨とふたりで出かけるなんてしょっちゅうあるし、俺からしたら遊びに行くのをデートと言い換えられただけの話だ。今更緊張する仲でもない。


 ただこっちとしても不安材料があるわけで…それを見逃すわけにもいかないだろう。




(これと歩いてるところなんて見られたら、俺は社会的に殺されるからな…)




 つい目を向けるも、やはり視線の先にあるのは子供の落書きのような紙袋があるばかり。


 いっそ悪い冗談としか思えない、変態か猟奇殺人者の格好そのものである。


 存在がブラックジョークの具現化と言っても過言ではない、この紙袋を被った不審者と並んで歩く自分を想像してしまい、思わず辟易してしまう。


 尊厳破壊ってレベルじゃないし、間違いなくSNSで拡散され、ネットのおもちゃと化すことだろう。


 さすがにそれは冗談じゃない。有り得ないとは思っていても、可能性はゼロじゃないのがこの幼馴染である。


 いい意味でも悪い意味でも、コイツの行動を完全に予測するのは付き合いが長い俺でも不可能なのだ。神を名乗っているのが、その最たる例である。




(まぁメンタル図太いとはいえ、さすがに花梨にも羞恥心くらいはあるだろうし、大丈夫だと思いたいが…)




 告白してきた相手に黒歴史を具現化したような姿で再度現れたヤツに、ほんとに羞恥心があるかちょっと不安になってしまうが、念のためだ。とりあえず聞いてみることにする。




「嫌っていうか…俺、神様とデートしなきゃいけないの?」




「…………あー」




 俺の言葉を聞いて神(自称)はなにかに納得したようにポンと手を叩くと、突如ムクリと立ち上がった。




「あ、おい」




「いきなりで悪いが用事ができた!さらばだ人の子よ!また会おう!」




 そのままベッドから飛び降りると、勢いよくドアを開け、神(自称)は部屋の外へと飛び出していく。


 止める間もない早業に、俺は呆然とその後ろ姿を見送るしかなかったのだが…






 バタン!






 ガサゴソ、ガサゴソ…






「……………………」






 …………なんか部屋の外で音がするんすけど。


 こう、なにかを脱いで折りたたんでいるような……






 バン!






 謎の物音に戸惑っていた直後、またもや部屋のドアが勢いよく開け放たれる。




「やっほー!トウマちゃん!貴方の愛しの幼馴染が遊びにきたよ!」




 神(自称)と入れ替わるように、というか入れ替わった花梨がニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべ、俺の部屋に現れた。




「……………………」




「いやー、今日はごめんね。私と話せなくて、トウマちゃんも寂しかったでしょ?そのお詫びも兼ねて、明日のお休みはデートに行こうよ!さっき廊下で神様と偶然すれ違って、映画のチケット貰ったんだよね!」




 俺は早口でまくしたてる花梨の話に耳を貸さず、無言で幼馴染の全身へと目を向けた。


 銀色の髪をハーフアップにまとめ、スカイブルーのパーカーにピンクのスカートという装いの花梨。




 それは言うまでもなく、神(自称)と同じ服装である。


 神(自称)が部屋を去ってから、一分も経ってないというのに、凄まじい切り替えの早さだった。


 それだけでも脱帽ものだが、髪型を変えてきたことは髪がはみ出さないようにしたためか。


 紙袋をかぶる以上、無駄といってはあれだが、ご丁寧に編み込みまでしてるあたり、それなりに時間もかかったんじゃないだろうか。


 それで遅く帰るようメッセージを送ってきたのかと得心がいく。


 うん、そこはいいんじゃないかな。


 昨日の反省点を活かしたことについては素直に褒めてもいいと思う。




 だけどね、見えてますよ。花梨さん。


 お前のパーカーのポケットから覗く、神の紙袋がバッチリとな…!


 そこは隠して欲しかったと、俺は密かに落胆していた。

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