第15話 天丼クラッシャーエリスさん

「それ、本当なの…?」




 恐る恐るといった様子で、柊坂が聞いてくる。




「マジだ」




「マジなの」




「マジなんだ」




「マジなのね」




「マジなんだよ」




「マジだったんだ…」




 なにこれ。無限ループかなんかか。


 こんなにマジって言うこと普通ある?


 めちゃくちゃ確認されたけど、マジって言う以外ないんだが。


 マジのゲシュタルト崩壊しそうになるぞおい。




「そう、なの…じゃあ三雲くんと花梨は付き合うのね…そっか…」




 どこか寂しそうに呟く柊坂。


 だが、そこには誤解が含まれている。




「いや、俺と花梨は付き合わないぞ。アイツの告白は断ったんだ」




「へ?」




 そう訂正すると、柊坂は目を丸くした。


 心底意外なものを見たような表情を浮かべている。




「花梨、可愛いじゃない?」




「可愛いな」




 あれ、このやり取り。なんかデジャヴ。




「しかも銀髪でしょ?すごくレアじゃない?」




「銀髪だな」




 なんでこの子も銀髪に言及するの?


 レアなことがそんなに重要なの?それ、恋愛感情と繋がらなくない?




「おっぱいも大きいわよね?」




「大きいな」




 おっきいけどさぁ、俺美乳派なんだが。


 やっぱ大事なのは形だよね。




「ちなみに私も大きいわよ?」




「それは確かに」




 思わず柊坂の胸に視線を落とすが、確かにでかい。


 花梨と同じくらいはあるんじゃなかろうか。


 大きいことは良いことだ。


 そんな俺を見て、柊坂は笑顔で頷いた。




「見たわね、これ普通にセクハラだから。このこと、花梨に教えとくからね」




「え」




 柊坂から下された突然の死刑宣告に、俺は戸惑いを隠せなかった。




「おまっ、それはずるいだろ!明らかな誘導尋問じゃねーか!」




「三雲くんがセクハラ野郎だって伝えれば、きっと花梨の目も覚めるはずよ。そうすれば私と花梨はズッ友になれる。私は生涯ぼっちではなくなるわ…」




 やだ、この子話聞いてない…




「待って。お願いだからちょっと待って」




 自分の願望を赤裸々に語る柊坂の目は、明らかに俺を見ていなかった。


 トリップしたような目をしてやがる。まさかこんな形で罠にハメられるとは。


 三雲冬真、一生の不覚…!なんてハラハラしていると、柊坂がクスリと笑った。




「まぁこれは冗談よ。言わない変わりにさっきの黒歴史は記憶から抹消して頂戴」




「タチ悪い冗談だなおい。心臓に悪いぞ」




 一応目は元に戻ったが、それでもどこまで本気かは疑わしいところだ。


 このやり取りでまたもや体力が消耗したのを感じ、肩をすくめる。




「それで実際のところ、なんで花梨を振ったのよ。あの子いい子じゃない。しかもあんなに三雲くんのこと好き好きって気持ち隠すつもりないし。あんな真っ直ぐな子、今時そういないと思うけど」




「それは…」




 どう答えるか一瞬迷う。本当のことを告げるべきなんだろうか。


 でも、ここまできたら今更か。隠したところで仕方ないだろう。


 それにもしかしたら、誰かに話すことで違う道を模索できるかもしれない。




「実はな…」




 そう思い、俺が花梨をどう思っているのかを、全て語ることにした。


 あるいは俺も、誰かに吐き出したい気持ちがあったのかもしれないと、そう思いながら。




 ……ちなみに紙袋のことはアイツの名誉のためにも一応伏せておいたことは、念の為に言っておこう。


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