第7話 神(自称)からの宣戦布告

「んしょっと…よし!これでバッチリ!待たせたなトウマよ!もう大丈夫だよ!」




 数分後、紙袋を被り直し、神(自称)はようやくこちらへと振り返った。




「……そうなんだ。バッチリなんだ。へー…」




「どうしたの?」




隙間からはハラハラと幾本もの髪の毛が、早くもこぼれ落ち始めていますよ神様(銀髪)。


だけど、それを突っ込むつもりはもうなかった。




「…………うん。お前がそう言うなら、もうそれでいいよ…」




 というか、突っ込みたくない。なんかもう、疲れたのだ。




「じゃあ神様。どうぞ、続きを話してください。もうなにも言いませんので」




「?トウマちゃんがそう言うならいいけど…じゃあ話すね」




 先を促す俺に、キャラ作りを忘れ、素で答える神様(自称)。


 うん、もうどうでもいい。神の正体もわかったし、さっさと言いたいことを話させて、早く寝たい。


 そんな考えが思考の大半を占めつつあった俺のことを、いったい誰が責められるというのだろうか。




「さて、私がここにきたのは言うまでもなく、その幼馴染に関することでだ。具体的に言うと、三雲冬真!君に説教しにきたんだよ!」




ビシリと俺を指差す神(自称)。


神が人を指差すな。行儀悪いぞ。




「はぁ…説教すか」




「隣の家に住む超絶ウルトラスーパー美少女……そんな子が幼馴染とか、ハッキリ言ってお前はSSR級の幸運の持ち主だ。しかもお前を好いてるというのだぞ?そのうえ向こうから告白までされるとか、もはやSSRを通り越してUR級のラッキーさだろうに、何故断る!?」




 そう言って憤慨する神様(怒り)。


 いや、例え安っぽくない?もっと上手い言い回しあったろ。


 てか自分をSSRとか、自信過剰すぎでは?まぁ合ってるんだろうけどさぁ…なんかこの世の不条理を感じるわ。




「えー…あの時も言ったけど、花梨のことは幼馴染としか思えないし…」




「何故に!?可愛いし性格いいし、おまけにトウマちゃんに常にべったりなんだよ!?普通意識するよね!?私なんて幼稚園の頃から意識しまくりだったよ!?」




 なんかいきなり衝撃のカミングアウトが始まった件について。


 神だけに神ングアウトってか。いや、笑えん。


 しかし神(自称)も神(自称)でなんかぶっちゃけてきたなおい。


 ある意味互いに本音で話し合ってると言えなくもないが、こんなシチュエーションでの本音トークとか嫌すぎるぞ…




「えー…マジで?」




「マジだよ!?ずっと好きだったんだよ!?マジで気付いてなかったの!?」




「いや、全然。いつも後ろをちょこまかついてきて、なんか犬みたいだなって……」




「犬扱い!?ペットと同じ目で私のこと見てたの!?」




「うん。そんで可愛がってたら、気付いたら保護欲にランクアップしたっていうか。恋愛感情に発展する要素が思い返せばなかったなーって…」




「――――――」




 そこまで話すと、神(自称)は絶句していた。


 なんていうか、傍目で見ても真っ白に燃え尽きているのがよくわかる。


 ちょっとつついたらサラサラと灰になって崩れ落ちそうだ。




「犬…私、ペット…銀髪…保護欲…恋愛感情……私、犬…犬レベル…ふ、ふふふ…ふふふふふ…」




「あ、あのー、かり…神様?」




呆然としながらも、ブツブツと何事かを呟き始める神(怖い)。


中身が誰かわかっていても、紙袋のせいでめちゃくちゃ異様な雰囲気を醸し出している。


見る人が見れば、呪いの現場と勘違いしてもおかしくないほど、今の神(自称)は闇のオーラを纏っていた。




「…………トウマよ。私は決めたぞ」




あまりの異様さに、なんと声をかけるべきか迷っていると、やがて神(邪神)は立ち上がった。


その背中には、決意の炎のようなものが陽炎のように揺らめいている。




「え、決めたってなにを…」




「本来はあってはならないことだが、このままではあまりにも幼馴染が不憫すぎる…というか、許せないよ!ペットとか!女の子とすら見られてなかったなんてぇっ!!!元々引き下がるつもりはなかったけど、もう決めた!絶対決めた!ずぇーっっったいくっつける!!我が神の力を持って、絶対幼馴染に惚れさせてやる!!!」




紙袋を被った神(自称)は、そんなことを一気にまくしたててきた。


相変わらず凄まじい負の念が噴出しているが、それはそれとしてなにを吹っ切ったような、ある種の清々しさを感じてしまう。




「トウマちゃんのほうから、私のことを好きって言わせてやるんだから!!!明日から覚悟してろよ、このヤロー!!!」




その迫力に気圧されていた俺にとんでもない宣言をした神(自称)は、勢いよくドアを開けるとそのまま階段を駆け下りていく。




「あ、おい。おま、紙袋被ってる状態で走ったら危な…」




「絶対私が勝っあ、うわらばばばばば!!!!」




い、言わんこっちゃない…アイツコケて滑り落ち寄った。


ゴンという鈍い音ともに着地音がするが、紙袋のせいで容態はいかんとも把握できん…あ、でも立った。とりあえず大丈夫っぽい。やっぱ頑丈だなアイツ。




「いったぁ…でも、負けるもんかぁぁぁっっっ!!!」




めちゃくちゃ元気な叫び声を残し、神(自称)は家を飛び出していく。


それはまぁいいんだけど…




「え、もしかしてまたあれくるの…?」




神の力とか言ってたし。なんか今回限りじゃないっぽいぞ。




「め、めんどくせぇ…」




思わず嘆息していると、ふと隣からまた叫び声が聞こえてくる。


言うまでもなく、それは俺の幼馴染のもので……




「お、お母さーん!?しっかりしてー!?」




「……………」




 …………あの紙袋被ったまま帰ったなら、そうなるよね。うん




「傷は浅いから、泡吹かないでよぅっ!助けてトウマちゃーん!?」




…………俺は知らん。俺はなにも聞かなかった。




「もう寝よう…」




 残念すぎる幼馴染の涙声を聞きながら、俺は制服を脱ぎ捨てると、無常すぎる現実から目をそらすべく、さっさと眠りにつくのだった。

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