【シナリオ】箱入り姫と大泥棒と最強騎士

旦開野

#1 箱入り姫と大泥棒と最強騎士

登場人物

ルビィ…マトカリア王国の姫。世界を征服する力を持つ宝石を魔法の力によって守っている。両親の過保護のせいでなかなか城から出られない。

マリーヌ…マトカリア王国最強と言われる女騎士。ルビィと宝石の護衛。

ジュール…大陸全体を股にかける大泥棒。ルビィ姫を自分のものにしようとしている。

マルクス…マトカリア王国国王の弟。ルビィ姫の叔父であり、いつもルビィのことを気にかけてくれる。





(ルビィ、本を読み上げる)

ルビィ:その昔、我がマトカリア王国に住む神の子が、興味本位で、自身の力を石へと注ぎ、美しい宝石を作った。神の子の力は強大なもので、その美しい宝石もまた、世界を征服できるほどの力を持った。その宝石をめぐり、王国では争いが起こった。皆、世界を我が物にしたかったのだ。そこに現れた救世主が我が先祖。元々神だった我が先祖は全ての力を込め、宝石の力を封印した。それと同時に我が一族は地上へ降り立ち、現代まで宝石の力が再び復活せぬよう、悪しきものに渡らぬよう、守り続けている。

ジュール:で、お姫様は最近その宝石を受け継いで、ずっと守っていると。それにしたって城の中だけでの生活は退屈じゃないか?

ルビィ:ほんとそうなの!もう退屈すぎて死んじゃいそう。

ジュール:だから俺と一緒にこの部屋から抜け出そうぜって、何度も言ってるじゃん。

ルビィ:いや、私だってお城から抜け出して街に行ってショッピングとか、おしゃれなカフェでパンケーキとか食べたいよ?だけどさ……

マリーヌ:また出たのか、このドブネズミが!

ジュール:げ?もう来たのかよ。

ルビィ:今日は早いねー。

マリーヌ:ルビィ様、こんなコソドロとは付き合うなって何度も口すっぱくして言ってるじゃないですか。

ルビィ:そう言われても、ジュールったら毎回毎回窓の外から侵入してくるんだもん。

ジュール:そりゃ、俺様は天下の大泥棒様だからな。ていうかマリーヌ、俺様をそこら辺のコソドロと一緒にするんじゃねぇ。

マリーヌ:そうか、私に文句があるのか。ならばその口今すぐに塞いでやろうか。

ジュール:待て待て。剣を納めろ。王国一最強剣士さんに正面から挑むほど、俺もバカじゃねえよ。

マリーヌ:だったら今すぐこの場を去れ。二度とルビィ様にちょっかいを出すな。

ジュール:はいはい、今すぐ去りますよ。ただし、お姫様は諦めないからね。またくるよ、ルビィちゃん。(ルビィの手にキス)

マリーヌ:ルビィ様、あんなドブネズミはもう相手にしないでください。あいつはあれでも犯罪者なんですよ。

ルビィ:わかってるよぉ。でも退屈すぎるんだもん。ジュールの話はすごく面白いし。退屈しのぎにはもってこいなんだもん。

マリーヌ:あいつはあなたの持っている宝石とあなたを狙っているんですよ。宝石もルビィ様もいなくなったとなれば国民が心配します。

ルビィ:大丈夫よ。いざとなったらマリーヌがすぐに駆けつけて守ってくれるでしょ?

マリーヌ:全く、困ったお姫様だ。ほら、今日は叔父様が隣国からやってきます。ご挨拶しに行きましょう。

ルビィ:そうだったわ。叔父様!私叔父様のお話大好きなの。今日はどんなお土産話を持ってきてくださったのかしら。急ぎましょう!


ジュール:当初、俺様は世界の全てを手に入れる宝石が欲しくて城へと乗り込んだ。しかし、俺様はルビィ姫に出会った。彼女は俺の運命の人だ。なんとしてでも彼女を手に入れてやる。そんな風に思って、俺も懲りずに城へと忍び込んだとき、俺はあることを盗み聞いてしまった。


ジュール:(ルビィの部屋のドアを急いで開けて)大変だ、お姫様の命を狙っている奴がいる!

マリーヌ:このドブネズミ!堂々と部屋のドアから侵入してくるとはいい度胸じゃないか!

ジュール:おい、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだって!

マリーヌ:コソドロの言うことなんて誰が信じるというんだ。そう言ってルビィ様を連れ去るつもりなんだろう!

ルビィ:まぁまぁ、落ち着いてマリーヌ。一応話を聞きましょう。

マリーヌ:しかし姫様……

ルビィ:私の命がかかっていることかもしれないから。嘘か本当かは話を聞いてからでもいいんじゃない?

マリーヌ:むむむ……

ジュール:俺、城の廊下でたまたま聞いてしまったんだ。姫様を暗殺するとかなんとか言っている輩たちの話を。

ルビィ:城の廊下ってことは、私を殺そうとしているのは身内だってこと?

マリーヌ:城に仕えているものたちは皆信用のおけるものたちだけを雇っています。そんな奴がいるはずありません。

ジュール:わからねぇよ?俺様にしょっちゅう侵入されているんだ。変装すれば案外紛れられると思うぜ?

マリーヌ:直ちに城の防犯を固めろ。このドブネズミも閉め出せ!

ルビィ:マリーヌ落ち着いて!今はジュールの話を聞こう?

マリーヌ:ルビィ様はこんな泥棒の話を信じるのですか?

ルビィ:宝石を取ろうとしてるならまだしも、私のことではジュールは嘘つかないもの。

ジュール:お、わかってるね。俺のお姫様。

ルビィ:俺の、は余計よ。

マリーヌ:しかし証拠がありません。私には城のものよりもこんな奴のことを信じることの方が難しい。

召使い:ルビィ様、マリーヌ様大変です!

マリーヌ:どうした?慌てて。

召使い:ルビィ様の昼食をご用意していたところなのですが、毒見役が姫様のお料理を口にした途端倒れてしまって……そのまま亡くなりました。

ルビィ:えぇ!?

ジュール:ほら、言ったろ?お姫様は命を狙われてるんだって。

マリーヌ:勘違いするな、お前の手柄ではないからな。

ルビィ:もう!言い合ってないでこれからどうするか考えましょう。

ジュール:どうするもこうするも、俺が全身全霊で守ってやるよ。なんて言ったって俺のお姫様だからな。

マリーヌ:それは私たちの仕事だ。ドブネズミなんかの仕事ではない。

ルビィ:こんな時まで喧嘩するなんて、ほんとあなたたち仲がいいわよね。

マリーヌ:仲良くなんてない!!

ジュール:仲良くなんてない!! (2人声をそろえる)

ルビィ:はいはい。とにかく、私は2人に守られていれば問題はなさそうね。

ルビィ:でも、守ってるだけではダメね。暗殺を計画している首謀者を見つけないと……

ジュール:だったら俺様に任せてくれよ。調査はいつもやっていることなんだ。

マリーヌ:ルビィ様を守るんじゃなかったのか?

ジュール:最強騎士さんがついてるんじゃ問題なさそうだからな。それに、さっさと犯人を捕まえるのだってお姫様を守ることになるだろう?(窓の外から飛び出て行ってしまう)

マリーヌ:いいのですか、あいつを野放しにしておいて。

ルビィ:私が大泥棒さんとつるんでいるなんて国民が知ったら驚くわね。でも今回の問題には彼の力が必要よ。


トントントン(ドアをノックする音)


ルビィ:はい。

叔父:ちょっとお邪魔するよ。なんだマリーヌも一緒だったか。あと……低い声があった気がしたんだけど気のせいか?

ルビィ:お、叔父様!気のせいじゃない?ここにはマリーヌと私しかいないわ。

叔父:そうか。それはそうとルビィ。約束のこと忘れてないよな?

ルビィ:もちろん、忘れてないわ。庭でテニスを教えてくれるんでしょ?

叔父:楽しみにしてくれているようでよかったよ。じゃあまた10分後に。(部屋を出る)

マリーヌ:私も行きましょう。

ルビィ:え、マリーヌもテニスに興味あるの?

マリーヌ:いいえ、あなたの護衛です。あなたの命を狙っている奴がいるとわかった以上、目を離すわけにはいかないので。

ルビィ:相変わらず使命感が強いよね、マリーヌは。

マリーヌ:使命なのもそうですが、あなたを失いたくないので……

ルビィ:え、なんか言った?

マリーヌ:いいえ、なんでも。さぁ、着替えてください。

 


ルビィ:2、3日の間、私はマリーヌに見張られながらお城の中での生活を過ごした。マリーヌはいい人だけれど、ずっと見張られているのはただでさえ窮屈な生活を余計に窮屈にした。全く、どこの誰かは知らないけれど、私の命を狙うなんて本当に勘弁してほしい。早く犯人が見つかればいいけど……そう思っていると、久しぶりにジュールが私の部屋に顔を出した。

 


ジュール:犯人の目星がついたぞ。

マリーヌ:遅かったな。これで嘘だったら承知しないぞ。

ジュール:相変わらずだね、騎士さん。とりあえず俺のお姫様に何事もなかったようで安心したよ。

マリーヌ:私がついているんだ。当然だろう。

ルビィ:全く……マリーヌもジュールも相変わらずね。で?私を殺そうとしていたのは誰なの?私の知っている人?

ジュール:それが……

マリーヌ:さっきまでの勢いはどうした。さっさと教えろ。

ルビィ:私には言いづらい人なの?

ジュール:ちょっとね。君がよく知っている人だから……

ルビィ:私はどんな事実でも受け入れるわ。教えてちょうだいジュール。

ジュール:じゃあ言うけど……君の暗殺計画の首謀者の名前はマルクス。この国の国王の兄であり、君の叔父だ。

ルビィ:嘘……嘘よ……

マリーヌ:貴様、適当なことを言ってるんじゃないだろうな!!

ジュール:こんなところで適当なことを言ってお姫様を悲しませるわけないだろう!

マリーヌ:やはり、お前は我らの国を混乱に陥れようとしていたんだな。

ジュール:どうしてそうなるんだ?

マリーヌ:黙れ!いいか、今この場から出ていけ。今出ていけば見逃してやる。ただここにい続けるのであればお前をこの場で斬る。

ジュール:ちくしょう、無駄に力ばかり持ちやがって……はいはい。もういいですよ。だけど助けてくれって後で泣きつかれても助けてやらないんだからな。(部屋から立ち去る)

ルビィ:……

マリーヌ:ルビィ様、大丈夫ですか。

ルビィ:……ごめん、ちょっと一人にしてほしい。

マリーヌ:……わかりました。(部屋から出る)

 


ルビィ:叔父様は私が生まれた時からよく顔を見せにきてくれて、色々なことを教えてくれた、私の憧れでもある。なかなか城から出られない私に城の外のことを教えてくれる叔父様。私が退屈しているのではといつも気にかけてくれてゲームやスポーツなどを教えてくれた叔父様。そんな叔父様が私を殺そうとしていたなんて考えたくもない。だからってジュールが嘘をついているとも思いたくない。確かに彼は泥棒だけど、私には親切だし、傷つけるような真似をしたことは一度もない。私はどうするべきなのか、どちらを信じるべきなのか、わからなくなっていた。

 

トントントン(部屋をノックする音)


叔父:ルビィ、入るよ。

ルビィ:……

叔父:どうしたんだい?マリーヌは?

ルビィ:席を外してもらっているの。ちょっと頭が混乱していて、一人の時間が欲しかったから。

叔父:ほぅ……それは好都合。

ルビィ:えっ?

 

ルビィ:振り返って叔父様の方を見ると、彼は剣を構えていた。

 

叔父:あの最強騎士がいないとなれば都合がいい。これで俺の願いを果たせる。

ルビィ:あんなに優しくしてくれていた叔父様がどうして?

叔父:優しくしていたのも計画のうちさ。お前に警戒心を抱かれてはなかなか近づくことはできないからね。うちの王国は宝石の力を抑えられる魔力を持つものが王位を継ぐ。おかしくないか?他の国だったら兄である俺が国王になるはずだ。だが俺は兄として生まれたが、魔力を持って生まれなかった。この国の変なしきたりのせいで王になれなかったんだ!だから弟が国王になったときに誓った。宝石を我が物にし、世界を、我が物とすると。弟の魔力は凄まじい。到底叶わない。だから宝石の所有者が移るのをずっと待ってたんだ。お前なら簡単に殺して宝石を奪うことができると思ってな!

 

ルビィ:私の目の前に叔父の持つ剣が振り下ろされる。私は思わず目を瞑る。しかし、剣先は私に当たることはなかった。目を開けると、ジュールが叔父の振り下ろした剣を自身の短剣で受け止めていた。

 

ルビィ:ジュール!

ジュール:怪我はないかい?俺のお姫様。

叔父:き、貴様は、大陸一帯で指名手配されている大泥棒のジュール!

ジュール:あれ、俺様有名人?照れちゃうなぁ。

叔父:お前もあの宝石を狙っているのか?

ジュール:最初はそのつもりで来たんだけどね、いつの間にか目的はお姫様に変わっちゃった。

ルビィ:ジュール危ない!

叔父:なんでもいいが、目的を邪魔する奴は切る!!

 

ルビィ:叔父は剣をジュールに向けて振り下ろす。しかしその腕はドアの方から飛んできた鎖に阻まれた。叔父の腕を掴んだのは……

 

マリーヌ:ルビィ様!無事ですか!

ルビィ:マリーヌ!どうして?

マリーヌ:そこのドブネズミの作戦です。ルビィ様が一人になれば犯人は必ず仕留めに来ると。そこを我々で捕まえようと。まぁ少々リスクの高い作戦ではありますが。

ルビィ:あなたたちいつの間に!やっぱり仲がいいじゃない!

マリーヌ:だから仲良くない! 

ジュール:だから仲良くない!(2人同時に)

ジュール:お姫様を守るっていう目的は一緒だったからな。今回だけは協力してやったんだ。

マリーヌ:仕方がなかったとはいえ、こんなドブネズミの力を借りなければならなかったなんて情けない……

ジュール:おい、そこまで言わなくてもいいだろう。

叔父:ちくしょう。まんまと罠にかけられたというわけか。

ジュール:観念しろ、おっさん。お姫様の周りには賢い護衛がたくさんいるんだよ。

マリーヌ:お前は護衛でもなんでもないだろう。お前も私が倒すべき存在だ。

ジュール:おぉこわっ。

マリーヌ:だか今回だけは見逃してやる。マルクスと一緒に牢屋にぶち込まれたくなければさっさと出ていけ。

ジュール:はいはい、そうしますよ。それではお姫様、ごきげんよう。次会う時は俺のものだよ。

マリーヌ:全く、不愉快な男だ。さて、マルクス。話はじっくり聞いてやる。ほら、立て。

ルビィ:これで一軒落着……だよね。

 :

ルビィ:マルクス……叔父様は私のお父様、国王に事情を聞かれ、その後懲役刑となった。私は今後自身と宝石を守るために今まで以上に魔力の訓練を強化され、よりお城の警備は強まった。しかしそんな強化された警備体制もジュールは難なくすり抜けて以前と変わらずに私のところへやってくる。

 

ジュール:ごきげんよう、俺のお姫様。随分とお疲れなんじゃない?

ルビィ:ジュール!ちょうどいいところに来た!もう今日は怒られたっていいから私をお城の外に連れてってよ!

ルビィ:もう息が詰まりそうで限界!

ジュール:おや?お姫様はやっと俺様と一緒に来てくれる気になったのかな?

マリーヌ:ルビィ様。

ルビィ:マ、マリーヌ!いつの間にいたの?

マリーヌ:お城の外に出ることは許しません。ましてやこんなドブネズミと一緒に。

ジュール:いいじゃねーか。たまにはお姫様に息抜きさせてやれよ。

マリーヌ:あなたがルビィ様を連れ出したら、二度とこのお城に返してくれないでしょう。

ジュール:あ、ばれた?

ルビィ:ふふふ。

マリーヌ:ルビィ様、何がおかしいんですか?

ルビィ:いいや、やっぱり2人って仲良しだなって思って。

ジュール:だから仲良くない!!

マリーヌ:だから仲良くない!!(2人一緒に)


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