桜の森

 満開の桜の森を歩いている時でした。

 後ろ髪を一房、誰かが指ですくったような感じがして振り向きますと、白い、それも異様に長い腕が一本、花天よりとろりと垂れておりました。

 ひしめく花弁で、腕の根元は見えません。

 腕は少しの間、何かを探すらしく揺れていましたが、やがて諦めたのか、飽きたのか―――するすると、糸を巻き取るような塩梅で、花天に隠れてゆきました。


 あとにはもう、陽射しと花吹雪が降り注ぐ、白く煙った道があるばかり。

 きっと白昼夢だったのでしょう。私は前へ向き直り、足早に桜の森を抜けました。

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