答8 彼女の友だちに会った結果

「そうだね……うん、いいよ、君が望むなら会いに行こう」


 僕は彼女の目を真っ直ぐに見つめてニコリと答えた。


 僕には何もやましいことなど無い。

 堂々と彼女の友達に会いに行こうじゃないか。

 僕たちは彼女の友達との待ち合わせ場所である、某駅前にある世界最大手コーヒーチェーン店に向かった。


 最近暑くなり、薄着をしているせいで、はちきれんばかりの巨乳の目立つ彼女の友達がすでにテーブル席についている。

 しかし、僕は彼女の後に続いて店内に入ったのだが、血の気が引いて足が凍りついた。

 彼女の友達が誰なのか、すぐに分かってしまったからだ。


「……どうしたの、関川くん?」


 彼女、モブ子ちゃんの僕を見る目に不信感が宿っている。

 僕が口を開く前に、モブ子ちゃんの友達が先に口を開いた。


「あ、セキぴー! やっぱりぃ、モブ子の彼氏だったんだぁ」

「……だ、誰のことかな?」


 僕は冷や汗でびっしょりと背中が濡れている。

 僕の泳いでいた目をモブ子ちゃんはしっかりと捕らえていた。


「君のことでしょ、セキぴーって?」

「な、なな、何を言っているんだい、モブ子ちゃん?」


 僕はガタガタと震えながらも、必死にごまかした。

 だが無駄なあがきだった。


「ごまかさないでよ! あたし知ってるのよ。君がこの子のお店に通っていることぐらいね」

「そ、それは……」


 僕は言葉に詰まってしまった。

 モブ子ちゃんは僕を虫けらを見るような目で見ている。

 でも、僕には正当な理由があるんだ。

 必死に堪えて言葉を続けた。


「僕だって仕事だったんだ! 取引先との接待で女の子のいるお店に通うことぐらいあるさ。僕だって嫌々成績を稼ぐために……」

「でもぉ、セキぴー、ハッスルタイムで一番ノリノリだったじゃん?」


 彼女の友達、セクキャバ嬢は僕の言い訳に爆弾をかぶせてきた。

 僕も負けずに言い訳を続けた。


「それは、僕が一番下っ端だから場を盛り上げるために……」

「もういいわ。言い訳なんてみっともない。やっぱり、関川くんって胸にしか興味がないのね」

「な、何を言っているんだ、モブ子ちゃん? 僕が君のことをどれだけ大事なのか分かっていないのか?」

「ええ、もう分からないわ。あたし、関川くんの特別なんだって自惚れていたわ。ただ、人より胸が少し大きいから付き合っていただけなのね? 関川くんが今まで付き合ってきたたくさんの女の子たちと同じ、その他大勢の遊び相手なだけ。 ……これで目が覚めたわ。さようなら」


 僕は違うと叫びたかった。

 でも、モブ子ちゃんはセクキャバ嬢を連れてコーヒー店から去っていった。

 僕は二人の後ろ姿を見えなくなると、がっくりと椅子に腰を落とした。


 まただ。

 運命の女性と出会えたと思ったけど、また違った。

 これで、081人目の人違いだ。


 何故かは説明ができないけど、物心がついた頃からどこかに運命の相手がいるような気がしていた。

 僕は、その運命の相手を探さなければいけないような強迫観念に駆られている。

 その見えない意思に従って、出会ってきた女の子たちを口説いてきた。

 そのせいで僕はプレイボーイだと思われている。


 でも、僕はいつも本気で彼女たちを好きだった。

 今回のモブ子ちゃんも心から好きだった。

 彼女こそ、運命の相手だと思っていたんだ。


 僕は、運命の相手を探し続けるという、どこか呪いのようなものに疲れてしまった。

 もう疲れ果ててしまった。

 僕はこの日、何もかもを投げ出し、辞表を提出した。


 そして、旅に出ることにした。

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