答6 答えの先

 僕は、今ここで彼女の手を取らなければ、永遠に彼女を失ってしまうことは理解している。

 彼女がに現れることはこれで最後なのだろう。

 僕は迷わず彼女の手を取った。


「……ありがとう。これできっと……」


 彼女は微笑み、まばゆい光の中に包まれていった。


「え!? 待って、どこに行くんだ!?」


 そして、彼女は光とともに消えてしまった。

 僕は独り、彼女のいた虚空に手を伸ばしていた。


☆☆☆


「ハッ!?」


 余は目が覚めた。

 寝汗で背がぐっしょりと濡れ、目から暖かい雫が溢れた。


 今のは、夢?

 だが、あまりにもリアルだった。

 例の女性が本当にすぐ側にいるようだった。


 あの言葉が妙に引っ掛かる。

 大切な分かれ道?

 どういうことだ?

 

 余は確かに彼女の手を取った。

 だが、余はまだ、この世界にいる。

 彼女もまた、この世界のどこかにいるのだろうか?

 それとも、やはりただの夢だったのだろうか?


「わふーん、あるじー、むにゃむにゃ」


 元魔王ペットは、余のベッドの上で犬のように丸くなって寝言を言っている。

 今は真っ暗な夜中。

 昼間に反乱の鎮圧さんぽに出掛け、帰ってきてから可愛がモフり、そのまま眠ってしまったようだ。


 余は目を細め、元魔王ペットの柔らかい毛並みの頭を撫でて、ベッドを出た。

 そのまま寝間着のローブを羽織り、少々肌寒い夜風に当りながらベルコニーに立った。

 コニャック風ブランデーのストレートを片手に、赤と青の双月を肴に、独り乾杯をした。


「フッ。何に乾杯なのやら」

 

 余はクツクツと笑い、琥珀色の液体を喉に流し込む。

 胃にガツンと降りてきて、身体が熱くなる。

 そして、脳髄の芯から覚醒する。


 あの夢の中で、あの女性の手を本能的に取ってしまったが、今思えば軽率だった。

 余は、僕は、ここでの生活が気に入っている。

 人間には忌み嫌われてしまっているけど、愛しい元魔王ペットに、異形のモンスターたちだが良く出来た部下たちがいる。

 僕にとって家族同然のみんなを捨てて、一体どこに行こうと言うんだ?

 

「ありえないな。僕は、余は大魔王せきかわだ。この世界に必要な指導者だ」


 余は鼻で笑い、ブランデーを一気にあおり、踵を返した。

 だが、どれだけ歩いても城の中に入れない。


「な、何だ、これは? なぜ、前に進んでいかない? 何が起こって……な!? う、うわああああああ!?」


 急に余の身体が浮かび上がり、双月に向かって引き寄せられていった。

 そして、漆黒の闇が口を開き、余を飲み込んだ。

 

 これが、彼女の手を取った答えだというのか?

 この分かれ道は、この答えの先はどこに向かうのだろうか?

 もし、この先に彼女がいるのなら、彼女は一体何者なのだろうか?


 何も見えない闇の中、余は、僕はただ漂っている。

 どれだけ時間が過ぎ去ったのだろう。

 1日? 1年? 1世紀?

 それとも1秒にも満たないのだろうか?

 何も分からない。


 そのうち僕は考えるのをやめた。

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