エピソード5

問5 この服を着ろと?

 目の前で、愛しいあの子が微笑んでいる。

 こんなに幸せなことはない。

 ここのところ、お互いに忙しくて、なかなか二人の時間を持てなかったのだ。


 やっとできた、二人だけの時間。

 キミが満面の笑みで余を見つめてくれる。

 キミのためなら、なんだってしてあげたい。

 心から、そう思える。


――と、ついさっきまでは思っていたんだけど――


 すまぬ!

 やっぱりムリだ、コレ。


「似合う! 似合いますよ、せきかわ様!!」


 キミが絶対に似合うと言いながら余に着せた服。

 鏡の前で、言われるがままにポーズをとってみる余。


 でも……ダメなんだ。

 今日だけは、キミの願いをきいてあげることができそうにない。


「これ着て一緒にお出かけしましょうねっ!」


 ああ、あの子の弾ける笑顔がまた可愛い。


 この笑顔を曇らせるなんて想像するのも嫌だ。

 嫌だけど、この格好だけは……


 ああ、余はいったい、どうすればいいんだ?

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