第56話 子爵の名前は知らん!!

 椅子から立ち上がった俺にマユが待ったをかける。


「タモツさん、行く前に一つ確認させて下さい」


「ん? なんだい?」


「公爵はダルドですが、子爵の名前は?」


 …… …… ……


「知らん!!」


「「「えーーっ!!」」」


「だって誰も子爵の名前は言わなかったぞ」


「確かにそう言えば…… カオリちゃんも女王様ロザリアさんも言わなかったですね……」


「だろ。だから知らん」


「あの~師匠」


「どうした? ライ」


「地図にラグデナ子爵領とあるので、恐らくラグデナが子爵の名前だと……」


「「「おおー、確かに!!」」」


「さすが、ライね!」


 いや、アヤカよ。そんなに大した事じゃないぞ。それに、名前は知らなくても場所が分かるから良いやって思ってたし……


「しかし、言いにくい名前だな。ラグデナって……ラグにしよう!」


「師匠、それじゃ先ずはラグの所ですか?」


「そうだな、ラグの所に行って跳ね返した呪いがどうなってるか見てみようか。転移場所はこの手前の森で良いな」


「はい、師匠」


「よし、今回は俺が転移をするから皆は手を繋いでくれ」


「「「はい!」」」


 そして、ラグデナ子爵領の手前の森に転移した俺達は子爵領を目指して歩きだす。

 

「何だかあの辺りに黒雲が立ち込めてますね」


 マユが言う通り、子爵領の街の中心部と思われる場所だけ黒い雲が空にある。


「あそこにカオリを呪っていた奴がいるようだな……」


「良し、ライとアヤカは【結界】を張ってくれ。俺は【隠密】と【隠蔽】を皆に掛ける。マユは周囲を注意しておいてくれ」


「「「はい!」」」


 そうして万全な体制になった俺達は呪いの元へと急ぐ。そこはこの街での子爵宅で、禍々しい気がうずくまっていた。

 しかし、俺達は気にせずに中に入る。【隠密】と【隠蔽】はちゃんとかかっているようだ。屋敷の誰にも気づかれずに呪いの元へとたどり着いた。

 そこには……


「ああ、何故だ。何故、私の娘がこんな姿に…… 公爵閣下に言われた通りに娘にペンダントを着けさせてただけなのに……」


 一人の中年男性がベッドに横たわる木乃伊ミイラの様に痩せ細った少女を見つめている。


『タモツさん、あの人がラグデナ子爵のようですね』


『ああ、その様だな。しかも、彼は何も知らされずに呪いに加担したようだ』


『師匠、どうしますか?』


『この呪いなら祓えるけど、様子を見ます?』


『いや、この隠れた状態のまま、祓わずにダルイに呪いを送ってやれ。出来るか? アヤカ』


『出来るわ。でも良いの? ダルド公爵も救えるなら救うんでしょう?』


『俺が思うにダルイはカミナと同じ様に、堕神の眷属に取り付かれてるんだろう。だから、呪いを送っても取り付いた奴がどうにかする筈だ。呪いを送ったら直ぐにダルイの所に転移して、一気に決着をつけるぞ!』


『『『はい、分かったわ(ました)!』』』


 そして、アヤカが【阿修羅王】をその身に降ろして呪いをダルイに送った。


『良し、マユ。悪いけどあの少女を回復してやってくれ』


『はい、タモツさん。やっぱりタモツさんは優しいです!』


『イチャイチャするのは後にしてね、マユ』


『分かってるわよ、アヤカ【完全治癒】!!』


 少女の体が光り、痩せ細っていた体が健康な肉体に戻った。


「おおっ!! かっ、神の奇跡か!? 治った、治ったぞー。良かった、良かった~ナミ、私は神に誓うぞ、もう公爵閣下の言う事は信用しない!」

 

 その言葉を聞いて、俺達はダルイの元に跳んだ。

 

 ダルイは……


「クソッ! これはどういう事だ! ラグデナの娘に跳ね返った呪いが何故、私に来たんだ!」


「ダルド様、ご無事ですか? ダルド様!!」


 ダルイは自室に鍵をかけていたようだ。使用人か護衛かは知らないが、扉の外からダルイに呼び掛けている。


「ええいっ、五月蝿い! 何でもないわ! 下がっておれ!」


「はっはい!」


 足音が遠ざかったタイミングで、ダルイの自室に結界を張った。


「むっ! 誰だ! 出てこい! ここがランゲインで一番偉いダルド公爵の自室と知っているのか!!」


 俺は【隠密】と【隠蔽】を解除して姿を見せた。

 

「貴様は! 毛のない猿が、何処から入りおった!! 直ぐに出ていけ!!」


「出てこいって言うから出てやったのに、出ていけはないだろう? ダルイ」


「己、五月蝿い! 私は偉いのだ! 誰も私には逆らえない!」

 

「だぁ~、かったるい…… 芝居はもう良いから本性を出せよ、堕眷おちけんちゃん」


「ぐ、まさか貴様か? ガルバから連絡が来なくなって、堕神様からガルバは死んだと聞いたが……」


「そうだな、ガルバの爺さんなら俺が滅してやったよ」

 

「グフフ、それはそれは。あのじじいを殺った位で調子に乗っているようだな。ガルバは所詮は捨てゴマよ。私こそが堕神様の真の眷属! この【魔黒のエイフ】様が貴様らに地獄を見せてやろう!!」


「マユ、あいつを引きずり出せるか?」


「はい、タモツさん。【光天昇】!!」


「むっ、ぐっ、グワア~、何だこの光は? か、体が、体がぁ~、と、溶け・・・」


「えっ? アレ?」


「マユ~、一人で片付けちゃって~私達にも見せ場を頂戴よ~」


「えっ? で、でも何で?」


「マユ、強くなったなぁ。引きずり出すつもりの技で滅してしまうなんて」


「さすが、マユさんです!!」


「えっと…… これで良かったんですよね? タモツさん」


「勿論! グッジョブだ!」

 

 余りにアッサリと消滅した為に信じられない様子のマユだが、今のマユの力で【光天昇アレ】を出せば眷属程度は一溜りもないだろう。


 それから俺達はダルイ公爵を起こして、これまでの事を聞いた。


貴殿方あなたがたが私を助けてくれたのですね…… 私は今まで自分の意識は無かったのですが、女王陛下やラグデナにかなり迷惑をかけてしまったようだ。どう償えば良いのか・・・?」


「まあ、取り敢えずは女王の元に行って話し合いをすれば良い。カオリなら悪い様にはしないさ」


 俺がそう言うとダルイは、


「そうします。先ずはラグデナの所に行って謝罪をしてから、女王陛下の元に向かいます」


 そう言った。


「ところで、何時から、場所は何処で意識がなくなったんだ? 覚えていたら教えてくれないか?」

  

「アレは…… 私の領地を視察して、帰る時だっと思います。領地の一番南の端の村から帰る時でした。途中に魔剴山まがいさんという山があって、その山の峠を登った所までは記憶にあります」


「そうか、分かった。有り難う」


 俺はダルイにそう言うと、皆に振り返り


「アヤカとライは公爵について行ってやってくれるか? 俺とマユは魔剴山に行ってみるよ。ラグも公爵だけだと会おうともしないだろうし、カオリに説明するのも、2人がいる方がスムーズにいくだろ」


「師匠、僕も師匠と一緒に行きたいです!」


「タモツさん、最後の美味しい所も私達には譲ってくれないの?」


 二人がそんな事を言うが、俺は


「恐らく、魔剴山に堕神がいるだろうとは思うが、ひょっとしたら裏をかかれて王都の方に行くかも知れない。そうしたら対抗出来るのはお前達二人だけだ。だから、頼む」


 と二人に頭を下げた。そんな俺を見た二人は、


「もう、分かりました。タモツさん、マユ、無事に帰ってきてね。こっちの事は心配しなくてもライと二人で護るから」


「師匠、まだまだ教わらなければいけない事エッチについてが沢山あります。ちゃんと帰ってきてご指導、お願いします!」


 と、言ってくれた。


「ああ、勿論だ。二人も気をつけて! マユ、悪いけど付き合ってくれ!」


「私はタモツさんと一緒なら何処までもついて行きます!」


 さあ、最終決戦は近い!!

  

  

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