第53話 女王陛下のお話

 別室に移動した俺達にキョウカさんから、


「お二人はご夫婦だとお聞きしております。そして、お二人で安住の地を探しておられると……」


 と言われた俺とマユは、


「そうですね。2人で穏やかに暮らせる場所を探しています」


「私はタモツさんと一緒ならどんな場所でも」


 そこでカオリが、


「あのですね、そんなお二人に見て欲しい場所があるのですが、お二人がよろしかったらこれから行ってみませんか?」


 と提案された。俺とマユは顔を見合せて頷きあい、返事をする。


「「ああ(はい)」」


 そうして、カオリ、キョウカさん、女王様ロザリアさん、ガリガリさんと共に王城の1室へと向かう。そこには、見たことはないが感覚で分かった【転移装置】があった。


「これからこの装置で転移しますが、場所はこの城から北へ30km離れた開拓中の村です。案内したい場所はその村から更に北に1km位進んだ所になります」


 とカオリが言うと、女王様ロザリアさんが、


「陛下、あの場所は未だに未開拓ですが……」


 と進言すると、今度はキョウカさんが、


「ロザリアさん、お二人にはあの場所が相応しいと思うの。川、山、海が直ぐ近くで、四季を感じられる場所だから。未開拓だけど女王である娘の自由裁量を任されている土地でもあるし。それに開拓中だけど、村人達も皆さん良い人ばかりだもの」


 そう聞いた俺とマユは兎に角その場所を見てみたくなって、


「論より証拠。早く見たいから行こうか!」


 と、我ながら子供の様にはしゃいで言った。皆が驚いた様に俺を見るが、海、山、川が近くにあるって最高じゃね!?


「はい、気にいって頂けると思います。では、行きましょう!」


 カオリが笑顔でそう言ってくれ、転移装置に手を触れた。瞬間、俺達は違う部屋にいた。

 

「ここは開拓中の村の責任者の家にある地下室になります。さあ、此方こちらです」


 カオリの案内で部屋を出ると、短い廊下と階段が。階段を上がると、石壁に囲まれた部屋で鉄扉があった。そして、その扉は認証式の様でカオリが扉横のプレートに触れると自動で開いた。そこには……


 オオバカ…… 違った、カオリの父親が居た。


「俺は認めねーぞ!! コイツにあの土地を譲ってたまるか!!」


 顔を見るなりコレかい…… しかし、俺が反論するより早く、


「へぇー、私の旦那は大事な娘の命を救ってくれた方に感謝もしない人だったのね。これはもう、離婚ね。結婚した時の約束も守れない人とは暮らしていけないわぁ~。シクシク」


 いや、シクシクって口で言うものじゃないですよ、キョウカさん。

 

 その言葉を聞いたオオバカは、グヌヌッと悔しそうな顔をした後に、キョウカさんに向かって、


「私が間違っておりました。離婚だけは勘弁して下さい」


 土下座をしている。しかし、カオリが


「父さん、母さんに謝る前にタモツさんと、マユさんに謝ってもらえる? わ・た・し・の命を救ってくれた方なんだから。それが出来ないなら、母さんとは離婚で、手荷物無しで国外追放ね。女王権限で必ず実行するから!」


 目が笑ってない怖い笑顔でそう言う。


 涙目のオオバカは、


「私が悪かったです。娘の命を救っていただいたにもかかわらず、楯突いてしまって申し訳ありません。今後一切その様な事はしないので、どうか許して下さい」


 と、主にマユに体を向けて謝罪する。それを見て苦笑が漏れるが、俺は


「貴重な秘伝も見せてもらえたし、もう気にしてないから良いですよ」


 と謝罪を受け入れた。恐らく、俺が謝罪を受け入れなければ、カオリは先程言った事を実行しただろう。それはそれで面白そうではあったが。


 それから、部屋を移動して会議室の様な場所で全員が座るとキョウカさんから説明があった。


「実はこの開拓中の村の責任者は私とそこの暫定的に許した夫のオオバカなんです」


「いや、俺の名前はオオバカじゃっ!」


「静かに、今は私が話しています」


 キョウカさんの一喝に俯いて黙るオオバカ…… 見かねたマユが、


「カオリちゃん、お父さんの本当のお名前は? 教えてくれる?」


と聞く。オオバカは顔中に感謝の念を表してマユを見た。


 ゴラァ!マユに色目を使うんじゃねぇっ!!


 威圧が噴出しそうになるが何とか堪えた。

 

「はぁ~、マユさんは優し過ぎます。あと1年間はオオバカで通そうと思ってたのに……」


 いや、キョウカさん、流石に俺でもソレは可哀想だと思うよ。


「お二人からはお許しが出た様なので…… 仕方ないですね。父の名前はミネヤーマ・タカトです」


 何気にカオリもキツいな。オオバカ改めタカトはまた涙目になっている。そんなタカトの存在は無視して説明が再開された。


「この村を含めて今からご案内する場所は今代の王が自由にして良い土地になってます。我がランゲインでは王は世襲ではなく、指名制になってますので王の役目を終えた後に住みたい場所を指定出来るんです。そして、カオリは誰も住んでなかったこの土地を選びました。人の手が入ってない土地でしたので、野生の動植物や魔獣も多くいてカオリが役目を終えるまでに人が住める環境にしようと現在は開拓を進めています」

 

「それで、村から1km離れた場所を俺達に見て欲しいって言うのは?」


「私から説明します。私の任期は18歳までで、あと8年あるんですが、次の王は既に指命していて貴族会議でも国民投票でも採用されました。それとは別に、私は15歳までに婚約者を決めて次代を担う者を育てなければなりません。それが、王となった者の決まりなんです。あっ、指命は断る事が出来ます。この国では王に指命出来るのは成人前の子供で知識、知能の優れた者になります」

 

 そこまで聞いて俺は???になる。


「えーっと、カオリさん? それが俺達に土地を見せたいにどう繋がるんだ?」


 思わず、聞いてしまった。隣でマユも頷いている。


「説明が長くてごめんなさい。実はこれはマユさんの許可を貰わないとダメな事なんですが、対外的に私の婚約者としてタモツさんの名前をお借り出来ないか、と……」


 語尾が小さくなったカオリ。一方のマユは、


「カオリちゃん、タモツさんの名前を借りたいって言うのは、そう発表して誰かを牽制したいからかな?」


 良かった、冷静だった。(ホッ)

 

「はい、そうなんです。マユさん、図々しいお願いなのは重々承知してるんですけど・・・『私は本当に婚約者になって欲しいんですけど』」


「それはアレか? ダルイ公爵か?」


「はっ? えっ? ダルイ…… ああ、そうです。ダルド公爵です」


「おっ、ダルイって意味が分かるんだな。」


「父が良く使います」


 うん、さすが異世界勇者の血筋だ。意味が通じるとは。


「で、発表する事によってどうなるんだ? それに、俺はもうすぐ50歳だぞ? ん? まだだよな?召喚されたのが…… うん、まだ49歳だ」


 「「「「えっ? エエーーッ!!」」」」


 カオリ、キョウカさん、女王様ロザリアさん、ガリガリさんの驚いた声が室内に響き、タカトの唖然とした顔で俺を見ていた。


 マユだけは俺の隣でニコニコと笑顔を浮かべている……

 そんなに驚く事か?

 

 

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