第9話 拠点って、マンションですか?

 さてと、背後で門が閉まる音を聞いた後、監視魔法の気配を探ったが本当に渓谷内には届かないようだ。今はまだ門に近すぎるから、もう少し先に行ってからマユに話し掛けよう。そう思い、黙々とゆっくりと歩いていたら、


「保さん、サーバインさんにいただいたコテージを広げる場所を探しているんですか?」


 とマユに聞かれた。


「いや、コテージは使わないよ。もう少し先、魔物が来ない500mギリギリの場所に拠点を作るつもりだ。後200m位かな?」


「作るって、木を切ったりしてですか?私はそういう作業に自信がないんですけど……」


 マユが不安そうに言うので、

 

「違う違う、もっと時間がかからなくて快適な拠点を作るから。マユは俺の後ろで3分位待って貰う事になるかな」


 と言いながら歩いていたら目的の場所に到着した。

 

「マユ、こっから向こう側には門の魔除けの範囲から外れる。だから、ここに拠点を作ろうと思う」

 

「あの、保さん、こんなに魔除けから外れる範囲が近くて大丈夫なんですか?」


「これはね、王国からもしも追っ手やあの3馬鹿勇者がやって来たら直ぐに隣国へ向けて逃げれるようにと考えてるんだ」


 と俺が言うと、マユは

 

「フフ、3馬鹿って。否定はしませんが。でもどうやって拠点を作るんですか?」


 俺達が歩いてきた道は幅が約5m位で、両側が高さ凡そ20m位の石壁だ。俺は唐突に右手側の壁に手をついてから、


「3分だけ、お待ちくださ~い」


 とマユに冗談ぽく言った。マユは不思議そうな残念な奴を見るような顔をして、


「えっと……」


 と言っている。3分後、俺は呪文を唱えた。

 

「開け~! ゴマ!!」


「いや、保さん、石は開かないです」


 と麻優が言うと目の前にいきなりマンションで良く見かける扉が現れ開いた。


「えっ! ええーーーーー!!」


 人間は驚くと『え』が出るらしい。


「さあさあ、入った入った。玄関で靴を脱いでね。後、扉も閉めてね。閉めると外からはさっきと同じ石壁になるから。細かい説明は中で落ち着いてしよう」


 マユは呆然としながらも、


「あっ、はい……」


 と言いながら中に入り、扉を閉めた。

 玄関は約6畳。そこから幅が1.8mの廊下が伸びていて、突き当たりに扉。勿論、両側にも5つの扉がついている。俺は入って直ぐの右側の扉を開き、


「ここがマユの部屋な。扉は内側から鍵を掛けられるから。中にはベッド、奥の2つの扉は右がトイレ、左が脱衣所と風呂な。脱衣所には洗濯機も備えてあるから。それから、左の扉を開けると洗濯物を干す物干し場所だから。あっ、風呂の湯は38℃で常に綺麗なお湯が入ってるようになってるから」


 懇切丁寧に説明したのだが、マユの耳には入ってないようだ。 


「お~い、マユ。聞いてる?」


 問い掛けると、


「なっ何がどうなってるんですか? 何で石壁にこんな部屋が? それに、私の部屋って……」


「おいおい、落ち着けって。ここなら安全だし、位階を上げるのにも便利だし。マユは先ずは栄養失調状態の改善と体力をつけないとな。1ヵ月位を目安として考えてるから。それに、どうせ暮らすなら快適な方が良いだろ?さあ、其れより今日は色々あって疲れただろうから、キッチンで簡単な食事をしてもう寝ようぜ」


 と完璧な提案をしたんだが、


「さっきまでは其ほど疲れてなかったんですけど、今まさに凄く疲れました…… 色々と聞きたい事が山積みなんですけど、今は説明を聞いても頭に入って来ないと思います…… なので、保さんの言うようにしたいと思います」


 と、棒読みでマユに言われた。


「う~ん、まあ納得出来ないだろうけどマユは自分が思ってるよりも疲れてるぞ。細かい説明は中でするって言ったけど、安全な拠点も出来たし慌てる事もないだろ。キッチンはマユの部屋の向かいだから、移動しようぜ」


 俺とマユは出来たばかりの拠点のキッチンへと移動した。そこでもマユは騒いだが、取り敢えずは胃に優しいが栄養豊富なスープで食事を終わらせ、2人共、今日は休む事に。


 寝る前にマユにキッチンの隣の部屋を指差して、俺の部屋はここだと言って、


「俺の部屋は鍵を掛けないから、何か用事があったりしたら言いに来てくれ。あっ入る前にノックはしてくれな。じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ。お休み~」


「お休みなさい。明日は細かい説明をお願いします」


 とマユは頭を下げて部屋に入って行った。





 

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