無菌室

悪夢は乾いた口蓋に張り付いていた

思考は私の皮下を這いずり回る

真新しい大きな水槽に水を入れて

カルキ抜きをしてそこに死を飼っている

この真っ白な何も無い無菌室は

錆びた仄暗い鉄格子の独房

私は四肢を拘束されて

「ほら、これがお前の脳味噌だ」

ねえあとどれくらい

頭痛はやがて脈拍になる

網膜上のスターバースト

コバルト色の胎児の鼻歌が

私の皮膚を溶かしてゆくのだ

靡くカーテンを見て泣いたあの人を愛したい

モルヒネの様な日光を呑み込んだ

息苦しい微睡みを飛び交う熾天使

この白い身体に絵の具を被ったとて

綺麗な人間には成れないのだから

私の発する言葉は全て私のものではなかった

それに気付いてしまった時の絶望が

弱化硝子の破片と共に掌に埋まったままだ

すぐに破れる皮膚を曝け出して歩く姿を

愛しいと思えるほど私は高尚な人間だったか

往来で誰かが私を指差して冷酷だと叫んだ

耐えかねて吐き出した禁断の実

スクラップブックを引き裂く指の先

花束を抱えた少女の亡霊と寄生虫の空腹

あの人の顔はとうに忘れてしまった


喉に食い込む四季を噛みちぎって

黴臭い産道を抜け下水道を廻る

私は何を自我だと錯覚していたのか

博愛の犠牲者を醜いと罵ってくれ

細胞の歌声は鳴り止まない

疼痛に瞼をきつく閉じて

掌の硝子はそろそろ心臓に回る頃だろうか

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