羊水と水葬

雨月 紫乃

僕が死んだ日

僕は君を殺したいくらいに羨ましいけれど

それでもやっぱり君にはなりたくない

そこらじゅうで横たわる明けた夜の抜け殻に 躓いて転んでしまうような僕はこんなにもみ じめだけれど

君はどこまでも純粋な有機物だけれど

僕は君にはなれないしなりたくもない

知らない誰かが死ぬ音でまいにちまいにち気が狂いそう

散らばった脳みその破片を必死に掻き集めて生きているよ

友達は誰も彼も他人になってしまった

親を殺すような気持ちで毎朝起きている

顔も知らない誰かが死んだ

最後のわがままさえも許されずに罵られ

幾多の言葉は蠢いて

それでも泣かずに微笑んでいる

忘れ去られた僕の死骸がゆっくりゆっくり朽ちていくその様を

僕は隣に膝を抱えて見届けよう

これは愛でも哀でもなくて

形あるものは壊れてしまうけれど

形のないものもいつか壊れてしまうかな

たとえ僕の存在そのものがバグだったとして

も構わない

果たして脈動や呼吸音の意味の証明の向こう側には何があるのかな

僕が死んでも君は泣かない

君が死んでも僕は泣かない

人差し指のささくれがほつれて命がはみ出した

造化に毎朝水をやる

君の瞳に飼い殺した銀河の果てで

死神の僕を赦してよ

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