第18話

 "Sクラス"の教室よりも天井は高く、全体的に落ち着いた色で統一されている。

 豪奢というよりは重厚な作りだ。

 窓は湖側面した部分全てであるらしく、天井まである大きさだからだろう、美しい湖面と街並みがパノラマ撮影宛らに見て取れる。


「あ、予約無しでもあそこの一段高い窓際、"Sクラス"は大丈夫らしいよ」


 薫がレストランの様に案内をしてくれているウエイターに聞いてくれたらしい。

 瑠華はそのウェイターの所作から『超越者トランセンダー』とはいかないまでも、軍人であるらしいのは分かった。


「ルカ、折角だから眺めの良い窓際で食事しようよ」


 椿がキラキラとした瞳で言えば、薫も肯く。


「だね。特典を無駄にするのってさ、運が逃げる気がする」


 否やは無かったのですぐに肯いた。


「分かったわ。…眺めの良い所をお願いします」


 ウエイターへと告げると「かしこまりました」とどうやら一番良い席に案内してくれたらしい。

 一段高い席の中でも更に湖側に飛び出ている様な所で、瑠華としては恐縮しきり。

 椿と薫は平然としたまま、席を引いてもらうのも慣れた様子で座っていた。


「”Sクラス”は食事全部タダって言ってたよね」


 椿のウエイターから渡されたメニュー表を見ながらの言葉に、薫も肯いて答える。


「らしいね。どこの食堂も…っていうかレストランにしか見えないけど、そうだってね」


 悩みながらも皆がメニューを決め、薫が代表して腕にした『超越者トランセンダー』専用バングルで告げ終わると、椿は難しい顔。


まだ使いなれない。昨日初めて身に着けたのもあるけど」


 薫はちょっと目を見開いた。


「僕は結構前かな。でも昨日アップデートされたから最新版らしいよ。そういう意味じゃなく?」


 椿は苦笑しながら右腕をポンポンと示す。


「私さ、『覚醒者アーカス』自体は『世界転変』と同時なんだけど、『超越者トランセンダー』になったのは『地獄インフェルノ』後期の頭ぐらいなんだよね。ほら、中期に入ると結構な国がガタガタだったじゃない。後期に真面に国として機能していたのは少数でしょ。この国は後期も保った側だけど、それでも国中全部把握出来てた訳ではない。地方の山村とかは特にね。実家はそういう田舎なんだけど、私達は一族で固まってたっていうのもあって、私自身が戦闘に参加したのもちょっとだけだからさ、『超越者トランセンダー』専用の物って初めてで」


 瑠華にしても薫にしても瞳を瞬かせる。


「椿ちゃんの一族元々能力持ちだとは聞いていたけれど、一族でまとまっていたのね」


 それを聴いて二人の顔を薫は交互に見た。


「え? 君達シード』だったの!?」


 全てが変わった日を『世界転変』と言うが、それ以前から特殊な能力を有していた一族や個人を『シード』と現在は呼んでいる。

 それはいわゆる”霊”と言われる存在が見えた、というものも含まれるのだ。


「君達って、貴方も?」


 椿が薫を見て目を見開いた。


「うん。とは言っても母方も父方も兄弟で一人は”霊”的なのか見えるってくらいだけどね」


 薫の答えに椿は納得した様に何度も肯く。


「『ルシード』は珍しい能力持ちになりやすいって聞くけど」


 薫は苦笑しながら目を指さす。


「元々の能力に由来して強化されたりっていう話は聴く聴く。確かに兄さんも僕も”目”関係だね。瑠華と椿…って呼んで良いかな? 僕は薫で兄さんは廉なんだけど、二人の一族についてって聞いても大丈夫?」


 瑠華と椿は顔を見合わせてから微笑んで肯いた。


「じゃ、私から話そうか」


 椿が名乗り出た時、ちょうど食事がウエイターによって運ばれてきた。


「給仕もしてもらえるのは凄いね」


 瑠華の驚きながらの言葉に椿が続く。


「まったくだわ。じゃ、冷めちゃったら作った人に申し訳ないし美味しくも無い。ついでに時間に間に合うようにチャッチャと食べますか」


 薫も肯き早速食欲を誘う匂いに釣られて食べ始めた。


 瑠華が選んだのは休日以外は手早く食べれるメニューが揃っている中から、お洒落なカフェメニューと見まごうばかりなパンケーキのワンプレートセットを選んだ。

 ベーコンとハチミツをたっぷりかけた食事用パンケーキはフカフカで、甘じょっぱい味がたまらない。

 新ジャガイモの温かいポタージュと、デザートの冷たいイチゴのシャーベットでさっぱりと食べ終わる。

 見計らったように、デザートを運んできた時に聞かれたミルクたっぷりの紅茶が注がれ、砂糖もたっぷりで人心地。

 紅茶はアッサムだろうと微笑んだ。


 椿はデミグラスソースたっぷりのオムライスのセットを。

 薫は肉肉盛り盛り厚い豚ロースの生姜焼きセットで腹一杯に頬張った。


 締めのミルク増し増しコーヒーを飲みながら、椿はのんびり語りだす。


「家の一族はコーヒーはミルクたっぷり。お茶は緑茶なんだよね」


 ほうじ茶を楽しみながら薫は微笑んだ。


「へえ。僕の所は特にこだわりないかな。あ、でも夏は麦茶! まだまだ時間あるね。着替えなくても良かったはずだし」


 椿は湖の方へと視線を向けた。


「じゃ、恥ずかしながら。私の一族ってさ、東北の山の中に住んでるんだよね。一位の木の精を祀ってる。大きな木で、赤くて甘い実がなるんだけど、これが凄い効果でね。『地獄インフェルノ』の時本当に助かったのよ。どこから伝わったのか、結構家の里に逃げてくる人達居たんだよね。中期も後半になれば『超越者トランセンダー』になっても弱かったりしたら国に把握されてない人も結構いて、そういう人達も来たなあ」

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