閑話の自省、または三指の残り-3

  閑話の自省、または三指の残り-3


 答えに窮する段に至るより早く割り切って過ごせば良かったと言うのか。遡るならいっそ、彼を愛さなかった私で在れば、彼に出会わなかった私で在れば良かったと。


 こんな方向性の毒吐きでは存外に筆が止まらない。考慮に値しない、即断に否を叩き付けられる自問であれば綴るに苦は無いと知れた。もう少し話し難い話題に舵を切ってみる。


 先述に躊躇われた道の話に差し戻す。選んで居れば如何なったかではなく、選ばなくて良かったと言う話で。諸々の前提は飽くまで自身に都合良く定める。どうせなら皿の底見えるまで吐き干そう。


 最大の懸念は、彼の帰郷に伴って多大な負担を強いていただろうと言う事だ。縦しんば良好な交際が続いて居たとして、彼と対の秤に乗る事など誰が許容し得ようか。奪い去る心算で争ってくれるなら私にも覚悟が湧くやも知れないが、そんな手合いでもない。潔く身を引く彼女を視界に傷心の片隅に置きながらでは、彼との最後の夏も陰惨な其れに成りかねなかった。


 そう思えば一方的な別れ話も「あれで正解だった」と腑に落ちる。もっと早くこの思考に至っていれば『幸せに』などと言う無責任なメッセージカードも焼き捨てず後生に取り置いただろう。

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