六人目の老公

  六人目の老公


 お人柄を語るより先に出会う経緯を書くのが順序だろうと思う。端的にとは言え斯様に呼ばわる事に抵抗は少なからずあるのだが、早い話が顧客の一人だった。


 先に二人目の男がコミューンを設立する真意について仄めかしたが、もうぞろ時効と思って書き残しておこうと思う。明かされて見ればとんだ誘蛾灯、趣味人を相手にした訪問販売の従業員を集める目的が男には有った。


 若年層の集まりだ、降って湧いた小遣い稼ぎに過ぎる話に色気を出すメンバーは少なくなかったのだろう。誰もが他者に必要とされる欲求に飢えていた部分も少なからず、精神的即物的何方にも利のある話であったとも言える。気付けばコミューンは其の儘非合法すれすれな営利集団に姿を変えていた。柔和な表現を使ってはいるものの内心恐々である、時効の年数は今更調べる気にもならない。


 私はと言えば、既に男から逢瀬の度に幾らかの駄賃を足代に受け取る事が習慣化していた為そう言った遣り取り自体に違和感や抵抗感は既に薄れていた。其れを意図しての行動だったのだとすれば投資家としての手腕に唸らざるを得ない。


 先達ての刃傷沙汰から日も浅かったが、幾人かが親交を絶ちたくないと誘いを掛けて来た事も多少手伝って彼らの生業に加わる足を踏み入れてしまっていた。此れも先述であるが体も時間も持て余していた、当時は運動部に所属していたので体つきも其れなり健康的で在ったので需要も相応には有ったらしい。倫理観が後ろ髪を引かぬ程度に彼の失踪から時間も経っていた。どれも今もっての後付けた言い訳に過ぎないが。


 眉目秀麗なメンバーに混じっては閑古鳥が鳴くのだろうと高を括った私の予想は早々に裏切られる。先述の身体的特徴が他の嫋やかな男共に無かった事も大きかったらしく、特に中年層からは好評を得ていた。固定客の平均年齢は四十其処そこと見ているが、其れを跳ね上げたのは間違いなく此の老公だろう。


 老公は郊外と言う程遠くない距離に邸宅を構えていた。送迎の車に揺られての道行だったので詳細な地理など見当以上が付きはしないが、移動の時間や道中の見知った景色から恐らく隣市の何処かだったのだろうと思う。届けられた先は楽隠居が終の住処にするに成る程と思える程度には平均から頭一つ出た風情の家屋と見えた。初めて訪なった折には柄にもない緊張を抱いた記憶が有る。


 行為は、他と比べれば淡白に尽きた。老公以外の固定客の趣味が倒錯していた為にそう錯覚した疑いも有るが、雑把に言えば楽な客だった。段を打った贅肉を隅々まで洗わされるだの部活帰りの体臭を小一時間掛けて堪能されるだのよりは余程嫌悪感が薄い、紳士的な対応にうっかり借り猫の様な態度を取っていた気さえしてくる。繰り返し指名を受ける内に前二者の行為にも徐々に愉しみを見出していった辺り私の歪曲も人を言えた限りでないが。


 老公の御指名は初回から四半年を少し過ぎる頃、持病で入院すると告げられるまで続いた。晩節には通常の行為も体力的に難しくなったのか、何時しか肢体を眺め触れて楽しむ程度に収まっていった。其れならば料金が違うと述べたのだが、余分は懐に収めて菓子でも買えば良いと押し付けられた。とらやの羊羹でも買えってか。

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