第20話 荷物の三角関係はめんどくさい

「タマコは、『テレコ発送』っていうの、やっちゃったことある?」

「テレコ発送?」

「たとえば、3人のひとに荷物を送るとするじゃない? そのとき、宛先の貼り間違いとかでさ、AさんにBさんの荷物を、BさんにCさんの荷物、CさんにAさんの荷物を送っちゃう――みたいに、入れ違いにして発送しちゃうこと」

「荷物の三角関係ってことぉー?」

「呼び方はもうなんだっていいけど……あるの? ないの?」

「ウチは発送ミスをしないようにするため、封筒とかダンボールに、じかに、受け付けコードを書いてるから、そんなうっかりでおっちょこちょいなこと、したことなんか一度もありませんよぉ~」

「…………」

「もしも~し、メイちゃ~ん、聞こえてる~? なんでいきなり音声通話でそんなこと聞いてくるの? 販売はやめたって言っておきながら、もしかして――」

 あたしは通話終了の赤いアイコンをタップした。

 ……チッ。使えないゴミめ。

 お馬鹿なタマコのことだから、一度や二度、誤発送の経験があるのではないかと思って訊いてみたけれど、無駄話に終わった。


 コンビニ発送の手続きを終えたあと、あたしは帰宅して自室にこもり、〝ギルマ〟のヘルプガイドを読んでいた。

 まだ入れ違い発送をしたと決まったわけではないが、そうなってしまった場合、どのような対応をしなければならないかを、確認するためである。

 結果、かなり厄介でめんどくさくなりそうだ、ということが判明した。

 まず、間違って送った荷物を相手から送り返してもらって回収するのは、絶対に無理だと思った。

 なぜなら、匿名状態を解除しなければならなくなるため。

 互いの住所、氏名、電話番号などを開示したあと、相手から着払いで誤荷物を送ってもらうことになりそうなのである。

 ……これは是が非でも、さけたい。

 だって、あたしの個人情報を、あたしが着古したTシャツを好んで買うような変態野郎に開示することになるのだから。

 メルトダウン級に最悪な事態。

 どうにかなるだろうと軽く見積もっていた自分があさはかだった。

 匿名解除の必要性があるとわかっていれば、あの場での発送を中止していただろう。荷物を落としてシャッフルしやがったおっちゃんに、燃えたぎったラッキーストライクで根性焼きを入れてやりたい。

「これからはタマコが言っていたように、荷物に直接、コードを書こう……」

 そうしておけば送り状の貼り間違いは、ほぼ確実に防げる。

 今までは、たとえ数字のみであろうと自分の筆記を変態に教えてなるものか、と躍起やっきになって付箋を使用していたが、もうりだ。コンビニ発送も、絶対使わない。

 ――誤発送時には、荷物をあきらめ、取引キャンセル。

 もしもの場合の対応は、こうなりそうだった。

 間違って届いた商品はタダであげるので、今回の注文は無かったことにしてください、という手はず。

 取り引きがキャンセルになると、支払われていた代金は購入者に全額返金される。本来希望するTシャツではないにしろ、相手には別の使用済みTシャツが無料で届けられることになるので、むしろ、ラッキー♪、と喜ぶに違いない。『良い』評価を維持できるだろう。

 3つとも誤発送しちゃっていたら、合計1万円近くの痛手。

 3匹の変態にTシャツを無償贈呈ぞうていするという愚行ぐこうのおまけ付きで……。

「どうか、かんが当たっていますように!」

 と、あたしは心の底から願った。

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