第二章 殺せる人には理由があるんです 遠城寺寛治1
導師の力
異世界から孤児院に帰ってきた日の夜。
寛治はさっそく女神様から授かった能力【導師】を使うことにした。
部屋のベッドに仰向けに寝転がって深呼吸を繰り返す。
絶対に失敗したくなかったから慎重に頭の中を無にし、その願いだけを思い浮かべた。
――みんなといつまでも一緒にいたい。
自分に居場所を与えてくれた大切な仲間たちとずっと過ごせるなら、たった一度きりの能力を使うことに躊躇いはなかった。
――みんなといつまでも一緒にいたい。
願いで脳内を満たしてから五秒ほど経った後、全身がぞわぞわし始めた。この独特の感覚は、能力の行使によるもので間違いないだろう。胸の内側がほのかに、いや燃えるように熱い。異世界の悪人たちを殺して回ったのはこのためだと考えると、皮膚がただれてしまいそうなほどの熱を感じているのに、ものすごく心地よかった。
いいや違う。
異世界で行ったことは殺人ではない。
救済だ。
なぜならその粛清によって、異世界の住人は確実に苦しみから救われたからだ。しかも寛治のことを英雄だと崇拝もしてくれた。つまり、どこからどう見ても自分のやったことは殺人ではなく、紛れもない正義だったのだ。
やがて、男とも女とも取れる抑揚の乏しい声が聞こえてきた。
「
その声が途切れると同時に寛治は目を見開いた。身体中からねっとりとした汗が噴き出している。
「……え」
意味が分からなかった。
だって高麗健一郎は、奏平の父親の名前だから。
「あの人を、殺す?」
【導師】が教えてくれたのだから正しいに決まっている。けれど、殺害対象は奏平の父親だ。あんなに優しそうな人を殺すなんて、奏平に恨まれるだけじゃないか。それとも奏平の父親は、殺さないといけないようななにかを隠しているのか?
「ってか、殺すって……」
そもそもここは現実世界だ。
殺人は犯罪。
異世界とは違う。
あの時は幼かったがゆえに、とある魔法の言葉を唱えるだけで完全犯罪が成立したが、高校生になってしまった今、もうその言葉は通用しない。
「ママガボクヲコロソウトシタノデウデヲフリマワシテイタラ、ママノムネニナイフガササッテイマシタ」
あの時言った魔法の言葉を一言一句違わず唱える。懐かしい。羨ましい。不幸な境遇にいる子供は最強なのだ。泣きながら、どこか一点を見つめて話すだけで、それは全部真実になる。
「くそぉ!」
と思わず叫ぶ。奏平の父親を殺す? ありえない。もしかして、あの女神様に騙されているのか? 暇つぶしの道具にされているだけなのか?
「ママガボクヲコロソウトシタノデウデヲフリマワシテイタラ、ママノムネニナイフガササッテイマシタ」
その言葉を何度唱えても、寛治の身体が幼児化することはなかった。ママガボクヲ……。それを呟きながら眠ってしまったせいか、寛治はその日、幼いころの夢を見ることになった。
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