④中央湖地域から来た者

 キザ猫が聡明な者にしか見えない剣を振るう、キョトンとした顔をしているヤザにキザ猫が言った。

「あれぇ今、腕を斬ったのに? もしかして、あなた本当は見えてないんじゃ?」

 慌てたヤザは腕を押さえて、斬られた演技をする。

「う、うわぁ! やられたでござる」

「そっちの腕は斬っていない」

 反対側の腕を押さえるヤザ。

 ヤザとキザ猫の距離五メートルほど、レミファが落ちていた小石をキザ猫の剣を持っていると言っている、手に向かって投げつける。

 小石が命中した箇所を、痛そうに押さえるキザ猫。

「ずいぶんと長い剣だぜら……剣、落ちたぜら。拾わなくてもいいぜらか?」

 キザ猫が、慎重にレミファの表情をうかがいながら、地面に落ちているであろう剣に、屈んで手を伸ばす。


 冷ややかな視線を浴びせながら言うレミファ。

「落ちた剣は、その位置にはないぜら」

「わかっている……見えているからな」

 レミファの表情を探りながら、キザ猫は落とした剣を拾い上げた。


 レミファが淡々とした口調で言う。

「剣の切れる方を握りしめている人間……初めて見たぜら、最初からアポやパカに見えない剣なんて持ってないぜら」

「本当でござるか? おのれぇ、謀ったな」

 ヤザが短剣を地面に突き刺すと、ミニチュアサイズのヤザがワラワラと沸いてきて、ルググ聖騎士団に向かっていく。


 ハミ肉が戦斧を一閃すると、ミニチュアのヤザは吹き飛ばされて消えた。 

 はぐれルググ聖騎士団と、クケ子一行の激突の緊張感が高まる中──左右が白と黒に分かれた、一匹のツートンカラーワイバーンが、突如舞い降りてきた。

 乗用の鞍や手綱やあぶみを装着した、ツートンカラーのワイバーンの背中には、逆光で人相はよく見えなかったが人が乗っていた。


 ワイバーンから、地面に飛び降りてきた人物が言った。

「飛んでいる時に、どこかで見たことがある紋章の鎧を着ている連中が見えたと思ったら……こんな所にまで、ルググ聖騎士団がいるとはな」

 ワイバーンから降り立ったのは、村娘の服を着て、ハ虫類皮の防具を肩や胸に装着した少女だった。

 背中には毛皮鞘に入った、白木の木刀を背負っている。


 訝る目で突然現れた少女を見ていたクラウンが、ハッ! と気づいた顔で取り出した沼ドラゴンのなめし皮に描かれていた、人相描きと少女の顔を見比べて体を震わせる。

「『鬼導星二きどうせいじ』! 中央湖地域の! 幽体転生者」

「ほうっ、さすがにルググ聖騎士団の間では、オレの名前もちったぁ。知れ渡っているみてぇだな」

 女の姿をした鬼導星二が、毛皮鞘から神木から削り出した木刀『白き木馬』を引き抜いて言った。

「どうやら見たところ、人様に迷惑をかけているみてぇだな……オレが軽い気持ちで言った。

『今日からスッ裸で姫は過ごせ』の言葉を素直に実践して、スッ裸で朝まで寝て風邪をひいた。

ルメス姫の特製風邪薬を東方地域に、とりに来た帰りだ。

軽く仕置きをしてやるか……かかってこいや」


 星二に破れかぶれで斬りかかる、はぐれルググ聖騎士団。

 星二の持っている木刀が、和傘の形態に変化して剣を防ぐ……そして剣の攻撃を弾いた直後に、神木の木刀は木製の砲筒へと変化して、木製球体の弾丸を撃ち出して。

 聖騎士団の鎧腹に次々と命中させた。

「がはっ!」

「ぎぃ!」

「ぐっ!」

「げっ!」

「ごぉ!」

 鎧の上からも伝わる強い衝撃に、地面でのたうち回る聖騎士たち。

 木刀形態にもどった神木を、背中の鞘に収納した星二は、左右ツートンカラーのワイバーンに飛び乗って。

 手綱を握ると、呻いているルググ聖騎士団に向かって言った。

「今日は、このくらいで勘弁しておいてやる……風邪薬を届けなきゃいけねぇからな」


 ワイバーンが羽ばたき、空中に浮かぶと星二は見上げているクケ子たちに向かって言った。

「オレは外見は女だが、ある事情で中身は男だ……この白黒ワイバーンは、相棒の『ジャジャ』じゃじゃ馬だから、そう名付けた……あんたたちとは、どこかで、また会うかも知れないし。会わないかも知れねぇな……じゃあな」

 そう言い残して、鬼導星二は飛び去っていった。

「いったい、何だったでありんすか?」

「さあ?」



双子ゴーレム山へ~おわり~

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