⑥魔王城のバーベキュー会場──最終決戦?迷路に潜む黒い盗っ人〔2〕
迷路の中を歩きながら、レミファがクケ子に質問する。
「宝箱の中には何が入っていたぜら?」
「つまらないモノよ、魔勇者が自分の威厳を誇示するために作った『魔勇者グッズ』の在庫品が詰まっていた」
「それは、お金をもらっても欲しくないモノぜら」
迷路を進むクケ子たちの前に、大小の石を埋め込んだ壁が現れ、その前にドロボウネコを抱いた女怪盗が立っていた。
女怪盗が言った。
「待っていたよ、あたしと勝負して勝ったら先に進む扉が開く」
クケ子たちは、色分けされて垂直の壁に固定された、岩登り用の壁を見上げる。
一番上の赤い石のところに、ランタンのような容器に入った宝石が、縄で吊り下げられているのが見えた。
ドロボウネコを床に置いた、女怪盗が準備運動をしながら言った。
「誰が、あたしと勝負する?」
レミファが一歩、進み出る。
「あたしが、やるぜら」
「用意はいいかい、先にあの宝石を取った方が勝ちだ」
「わかったぜら」
ドロボウネコが「ニャー」と鳴いたのを合図に、女怪盗が女豹のように壁を登る。
(あたしのスピードに勝とうなんて、身の程知らずが)
勝利を確信する女怪盗。
もう少しで女の手が宝石に届きそうな時、レミファが登らずに投げた魔法のステックが、宝石ランタンに命中して落ちてきた宝石とステックをレミファは拾い上げる。
レミファを見下ろしながら、呆然とした顔で女怪盗が言った。
「そんなのあり?」
「盗っ人相手に、真面目に勝負なんかするハズないぜら……勝ちは、勝ちぜら」
ドロボウネコが「ニャー」と鳴いて、レミファの勝利を宣言した。
迷路を進むクケ子たちの前に、盗賊軍団リーダーの盗賊が現れた。
盗賊が言った。
「よく、ここまで来たな……オレは、メチャクチャ強いぞ。尻尾を巻いて逃げるなら今のうちだ」
「本当に強いぜらか?」
「ウソぴょん♪ 全然強くありませーん。オレの代わりにお前たちの相手をするのは、これだ!」
盗賊が見せたのは、野球ボールくらいの球体だった。
その、アイテムを見たヲワカが言った。
「幻のレアアイテム『魔獸球』でありんす!? まさか、まだ現存していたでありんすか?」
クケ子がヲワカに訊ねる。
「知っているの? あのボールがなんなのか?」
「魔獸を封印して服従させる、エルフ魔法の古代アイテムでありんす……確か、魔獸『アリャパンゴラァ』が一匹入っているはずでありんす」
「アリャパンゴラァって何?」
魔獸の正体がわからないまま、盗賊は魔獸球から怪しい魔獸を出現させる。
「いでよ! アリャパンゴラァ!」
魔獸球から吹き出した白煙の中から、パンダと、ゴリラと、アリを合成したような生物が出現する。
基本はパンダの体で、アリの触角、ゴリラの鼻と口と腕と胸部、お尻にアリの腹部がついていた。
目元はパンダだが、鼻と口の辺りがゴリラなので可愛くない。
盗賊が、魔獸アリャパンゴラァに命令する。
「おまえの力を見せてやれ! アリャパンゴラァ」
アリャパンゴラァが、ゴリラのように胸を叩いて威嚇のドラミングをする。
「ニャーウホッ! ニャーウホッ!」
ポコッポコッ……ポコッポコッ……ポコッポコッ。
いつまでも、胸を叩いているばかりなので、盗賊はアリャパンゴラァを魔獸球にもどして、クケ子に魔獸球を差し出して言った。
「オレの敗けだ、この先の通路を進んで、デコスライムがいるところがゴールだ」
魔獸球をゲットしたクケ子たち一行は、ウソつき盗賊から教えられた道とは別の道を進んだ。
盗賊が教えた通路を進んでいたら、通路いっぱいに増殖した人食いキューブスライムのトラップが、曲がり角で待ち構えていた。
クケ子たちが進んだ通路の行き止まりには、椅子に座ったデコスライムが、メガネをして本を読んでいた。
難関を突破してゴールしたクケ子たちに、読んでいた本を閉じたデコスライムは、ペチャペチャと祝福の拍手をすると。
体内に浮かんでいるアイテムの中から、指輪を取り出してヲワカの方に伸ばした触手で差し出した。
どうやら、ゴールをした景品のつもりらしい。
指輪を受け取ったヲワカが呟く。
「『フェアリーの指輪』でありんす、小人の腰に装着すれば小人に妖精の羽が生えるでありんす……あまり、使い道が無いアイテムでありんすが。気持ちとしてもらっておくでありんす」
デコスライムの一部が、鍵状に変化して壁にあった鍵穴に差し込まれ回される。
壁のドアの向こう側には、魔王城の中庭が広がっていて。
各軍団のバーベキューパーティーが、行われている真っ最中だった。
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