渓谷屋敷のハーフエルフおぼちゃまは、赤いガイコツさんに本当の気持ちを告白したい

①渓谷町が夕日に染まる

 クケ子たち一行は、夕日に染まりはじめた渓谷を、谷の崖道から眺めていた。

 ヲワカが言った。

「絶景でありんす」

 ちなみに、ヲワカが所持しているエルフの引き弓とクロスボウは、人間では扱うコトができない


 岩の上に腰を降ろしたクケ子が答える。

「そうね」

 刻々と色彩が変化していく谷の中にある、少し台地っぽい点在している、段差な平らな場所には町や緑の草原や森や湖が見えた。

 今日のクケ子のウイッグは、銀色のミディアムショートだ。


 腕組みをして立つ、ヒゲ面のヤザが言った。

「また、谷の色が沈む夕日で変わったでござる……このような場所があったとは」

 クケ子が地図を見ているレミファに訊ねる。

「で、あたしたちが今いる場所は?」

「道に迷ったぜら、本来の街道から外れた道を進んでいるぜら……やっぱりあの分岐標識の向き、逆だったぜら」

「どうするの?」

 レミファが、谷にある町を指差す。

「今夜の宿を探すぜら……宿泊所を兼ねた、ギルドがあれば助かるぜらが」

 クケ子たちは、谷底へと続く断崖の道を下って渓谷町へと向かった。


 まるで、童話にでも出てきそうなメルヘンチックな街並みだった。

 両側を岩壁に挟まれた谷の町。

 住人たちの耳は、横に尖っている。純正種エルフのヲワカが言った。

「人間とエルフのハーフエルフの町でありんす……あきちのように、魔矢みたいなアイテムを扱う力は無いでありんすな」

 暗くなりはじめた町を歩くクケ子たち一行、町の者に聞いたところ。

 町にはギルドは無いというコトだった。

 クケ子が尻尾を振る盾を撫でながら、レミファに訊ねる。

「キャンプでもする? さっきの空き地で」

 レザリムスでは、森や荒野、公園や空き地で冒険者や旅人がたきぎを焚いて野宿をしているのは、普通の光景だった。

 最近ではアチの世界からの影響で、キャンプ道具をレンタルする店も現れ。

 レザリムスでは今、キャンプという名のゆるい野宿『ゆる野ジ』が、ちょっとしたブームになっている。


 歩きながらレミファが言った。

「野宿のたびにキャンプ道具のレンタル料は払えないぜら……野宿する場所の前に食事を……」

 レミファの足が一軒の食堂の前で止まる。

 見上げる吊り看板には『毒森メニューがない愛想がいい創作料理店 ──渓谷町店』そう、レザリムス文字で書かれていた。

「まさか、こんなところで南方料理の店に出会えるとは……メシぃ! ぜら」

 まるで炎に引き寄せられる虫のように、ふらふらとドアを開けて店の中に吸い込まれるように入って行き。

 クケ子たちもしかたなく、レミファの後に続いて店に入った。


 数十分後──骨が突き出た肉料理をほおばっている、レミファの姿があった。

「美味いぜら……素朴ながら、素材の味を生かした南方蛮族料理」

 ヲワカとヤザも肉料理に舌鼓を打っている。

「謎肉のスープも、なかなかイケるでありんす……肉の中に眼球みたいなのが埋もれて、スープの中から覗いているのが少し気になるでありんすが」

「うむっ、香辛料が効いているキノコ料理も美味でござるな……おぉ、キノコから小さな手足が生えておる、これはまた愛らしい」

 クケ子たちが、食事を終えると。

 赤身肉の塊のような全身に目がある、百目族のシェフが厨房からノソノソ出てきた。

 体からはキノコが生えている、百目シェフが言った。

「お味の方は、いかがでしたか?」

「大満足だぜら……少し聞きたいけれど、この店は百目一族で経営している店ぜらか? 毒森ってどういう意味ぜら?」

「はい、我が一族は料理に精通していまして。コックやシェフが多く選出しています──毒森というのは、アチの世界に出店した。愛想が悪い兄が人間に化けていた時に名乗っていた名前で。

今はアチ店はエルフの女性オーナーに譲って。こちらの世界にもどってきています……確か、蛮族料理人のリュードがアチの店の料理長をしているとか」


「あの、蛮族の名シェフ『リュード』が料理長を!! クケ子どの、アチの世界の毒森店を知っているぜらか?」

「さあ? 聞いたことないけれど?」

「あきちとヤザが、ラーメンを食していたアチの世界でも。その名前は聞いたことはないでありんす」

「そうぜらか……クケ子どのアチの世界と、ヲワカが行ったアチの世界と、毒森メニューがない創作料理店のアチの世界は別の世界だぜら」


 レザリムスの住人は自由にアチの世界〔異世界ファンタジーではない世界〕を往復できるが、そこにはある一定の決まりがある。

 それは、レザリムスの住人が一度行って繋がったアチの世界としか、往来はできなくなる……というものだった。

 レミファは、クケ子のアチの世界との往来は可能だが。

 ヲワカとヤザは、クケ子のアチの世界には行くことはできない。

 反対にレミファは、ヲワカとヤザが往来できる、アチの世界に行くことはできなかった。


 邪魔魔女レミファが、百目シェフに訊ねる。

「この町で宿泊できる宿屋はないぜらか?」

「渓谷町には本業の宿屋はないですね……紡績ぼうせきと鉱山で栄えている町ですから。

旅人を泊めてくれそうなのは、小カジノのギャンブル店ですけれど。あそこはやめた方がいいですよ……ギャンブルに誘われて身ぐるみ剥がされますから……あと、旅人を快く受け入れてくれそうなところと言えば」

 少し考えてから、百目シェフが言った。


「町一番のお金持ちの、お屋敷ですかね──この町の紡績工場と鉱山を所有している町の名士で、人間の主人ですが旅人には優しく接してくれるはずです……お屋敷にいる一つ目の執事が、たぶん」


 クケ子たちは、町一番のお金持ちの屋敷に向かった。

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