雪猿人が風呂に入る温泉村は大騒ぎ!

①地獄の間欠泉は村の名物?

 赤いガイコツ傭兵のカキ・クケ子。

 邪魔魔女レミファ。

 ありんす狩人エルフのヌル・ヲワカ。

 魔法戦士のYAZAヤザの四人は、山間にある観光温泉村を見下ろす峠の茶屋で休憩していた。

 湯煙が村の随所に上がる、温泉村を見てヲワカが言った。

「温泉に浸かって、ゆっくりできそうでありんす……あれは、なんでありんすか? クケ子どの?」

 ヲワカが指差した茶屋の店先には、温泉街の店先によくある木製の蒸し器があった。

「もしかしたら、温泉マンジュウとかを蒸すアレかな? なんで、こんなモノが異世界に?」

 アンコがついた、串刺し三連スライム団子を食べているレミファが言った。

「東方地域は特に、アチの世界と繋がりが深くて、文化影響を受けている地域ずら……アチの世界と似たモノがあっても不思議じゃないぜら」

「そうなんだ」

 クケ子が湯気が出ている蒸し器を眺めていると、茶屋の看板ミノタウルス娘が店の奥から出てきて言った。

「何かお取りしましょうか?」

 和装のミノタウルス娘の角は丸まった羊角だ、この温泉村にいるミノタウルス住人は、ほとんどが羊角をしている。


 クケ子が、金銭袋から數枚のレザリムス硬貨を取り出して、ヲワカに訊ねる。

「ヲワカも、温泉マンジュウ食べてみる?」

「食べたいでありんす」

 湯呑みの中に入った、抹茶チャイのような飲み物を飲んでいたヤザが言った。

「拙者も、食べてみたいでござる……その温泉マンジュウとやらを」


 クケ子が、蒸し器の中で蒸されているモノを三つ注文すると、肉まんサイズの蒸した食用スライムが、皿に乗せられて出てきた。

 表面は硫黄温泉玉子のように、黒く変色している──看板娘の説明だと黒い殻を剥いて食べるモノらしい。

「おマンジュウじゃなかった……蒸しスライムだった」


 クケ子たちは、購入した蒸しスライムの表皮を剥いて、かぶりつく。

 たっぷりの肉汁が、スライムの中から溢れ出すす。

「ほくっ、蒸したスライム美味しい」

 クケ子が食べている下顎の隙間から、こぼれ落ちてくる蒸しスライムの欠片をレミファが、小さい容器で受け止める。


 ヲワカはスライムを食べながら、眼下の温泉村を眺める。

 湯煙が集まって向かい側の山に発生した、中腹に漂う雲海が山頂にある

城跡を雲に浮かぶ天空の城のような、幻想的な風景を作り出している。


 天空の城跡から、少し離れた場所の雲海からは巨大な立位牛大仏の頭が、雲の上にニュッと出ていた。

 茶屋前の掃き掃除をはじめた看板牛娘が言った。

「あの雲の上に頭を出している立ち大仏が村の名所の『牛喰う大仏』です……気象条件が重ならないと、あの位置に雲のジュータンは発生しないんです──あと数分で、風に飛ばされて雲はなくなりますね」


 看板牛娘の説明だと。その昔、勇者パーティーに主の魔王を倒され。

 勇者たちの魔王軍の残党狩りから、この地に逃げてきたミノタウロス一族の一人が『牛喰う大仏』がある場所の大石に腰を下ろし休憩していたら、石の下から間欠泉が噴き出して発見されたのが。

 この村の温泉だと話した。


「間欠泉で空に舞い上がって、落ちてきたミノタウロスの角は恐怖で丸まって羊角に変わっていたそうです、その時からこの村で生まれるミノタウロスは羊角になったそうですよ」


 少し早く蒸しスライムを食べ終わったヤザが、茶屋近くにある噴火口のような場所に近づく。

 看板牛娘がヤザに注意する。

「お客さん、あまり近づかない方がいいですよ……そろそろ、噴き出す時間ですから」

「何が穴から噴き出してくるのだ?」

 ヤザが柵で囲われた直径二メートルほどの山頂の穴に近づいて、覗き込もうとしたその時──穴の奥の方から、ゴゴゴゴッという地鳴りのような音が聞こえ。

 間欠泉が勢いよく噴き出した。

「どわぁぁ!?、アチッアチッ」

 驚いて腰を抜かすヤザ。

 村のあちらこちらでも、同じ時刻に間欠泉が噴き出した。

 間欠泉の噴き出しは、この村の名物だった。

 日の光りを浴びて、間欠泉に虹がかかるのは幻想的な光景だった。



 峠の茶屋から、温泉村に向かう坂道を歩くクケ子が言った。

「ヲワカを今回の旅に、デジーマ島で誘った時に『どうしてレザリムスで、ガイコツになってまで傭兵を続けている?』と聞かれて、ヤザを誘えたら話すと約束していたね……ちょうどヤザもいるから今、話す」

 歩きながらクケ子がしゃべりはじめる。


「あたしは、元いた世界……アチの世界で、人間関係の煩わしさや、残業の多さから心身が疲れてしまって。

働くのがイヤになって自暴自棄になっていたの」

 クケ子の腕に装着している盾の犬の尻尾が振れる。クケ子の話しは続く。

「あたしってどんな仕事が向いているんだろう? なんで仕事ってしないといけないんだろう? 本気で悩み続けながら毎日生きていた時期もあった」


 赤いガイコツの顔を上げて、出ていないはずの汗を手の甲で拭う仕種をする。

「そんな時期に、この世界に科学召喚されて【不死身の傭兵】に……あなたたちと出会えて、魔勇者を倒す旅をして……楽しかった、その時気づいたの『あたしは異世界に就職したんだって』」

「そうでござったか」

「クケ子どのも、人知れずの苦労をしているでありんすな」

 歩きながらレミファがクケ子に質問する。

「クケ子どのは、もうアチの世界にもどっても、仕事はしないでぜらか?」

「ううん、向こうでも仕事探して働くよ……コチの異世界傭兵は、バイトみたいなもんだもん。あたしなりに働くコトの意味がわかったから。

仕事をするって、動物がエサを求めのと同じコトだってコトに……人間はそこに楽しみも加わるけれど」


「働くコトが、動物がエサを求める行為と同じというのは、面白い例えでありんす」

「クケ子どのから貴重な話しを聞かせてもらえて、良かったでござる」


 そんな話しをしながら山道を歩いてきたクケ子一行は、ふもとの温泉村に到着した。

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