④旅の仲間は『邪魔魔女』

 随所に休憩を挟みながら道場での半日が経過した──木刀で打ち倒され破壊された『コケシ木人』数体が転がる道場で、木刀を構えハァハァと呼吸を整えている彩夏の姿があった。

 大きく息を吸い込み、落ち着いた彩夏が木人の次の攻撃に備えて構えた時──ハシビロコウの声があった。

「半日が過ぎた、稽古終了だ」

 木刀を床に放り投げて彩夏が言った。


「ただ、木偶人形に木刀で攻撃されただけで、なにも教えてもらっていませんけれど?」

「本当にそう思うか……おまえ、一度も木人の木刀を体に受けていないだろう。全部受け止めて弾き返して、反撃に転じた」

「そう言われてみれば? なんでだろう?」

 彩夏が放り投げた木刀を拾い上げて、ハシビロコウが言った。

「おまえ、科学召喚されてコチの世界のレザリムスに来る前に変なゲームやっていなかったか? 『腐れ転生者を追い詰めて撲殺する』みたいなゲームを?」

「やっていました」

「やっぱりな、あのゲームを作成したのは。おまえの世界から召喚されて来ていたゲームプログラマーだ」

「えっ!?」

「以前、レザリムスでも安易な腐れ転生者が大量発生した時期があってな」

「カメムシとかマイマイガが、大量発生するようなモノですか?」


「まぁ、そんなようなものだ……大量発生した転生者に怒ったレザリムスの住民が「出ていけっ!」と、転生者を生きたままそれぞれがイメージしている地獄に流して追放したコトを記念する『腐れ転生者追放記念日』が誕生した。

その時にいたプログラマーが、おまえの世界にもどってゲームを作ったんだろう……ゲームプレイをする中で、剣術が無意識に刷り込まれた」

「じゃあ、あたしが召喚されたのは偶然じゃなかったと」

「あぁ、おまえはレザリムスで必要とされたから科学召喚された……免許皆伝だ、おめでとう。この先も精進を怠るなよ」

 コケシ木人たちが、彩夏に向かって口々に。

「オメデトウ」

「オメデトウ」

 と、彩夏の免許皆伝を称えた。


 剣術指南道場から出た彩夏は、大通りを挟んだ向かい側にある喫茶店のテラス席で、こちらに向かって手を振っている召喚請け負い業男の姿を見た。

 男が座っているテーブルには、魔女っ子のような小柄な少女が椅子に座って、彩夏の方を見ていた。


 ピンク色の魔女っ子帽子。

 丈が短い、ヘソ出しのピンク色の上着。

 ピンク色のマフラー。

 太モモ丸出しの、ピンク色のショートパンツとピンク色のブーツ。

 手には玩具のような、魔法のステイックが握られている。


 彩夏が召喚請け負い業者の男の所に、向かおうと左右をよく確認しないで大通りを横断しようとしたその時──暴走してきた女ミノタウロスの群れに弾き飛ばされた。

「あがぁぁぁ!?」

 白目を剥いて空中に舞った彩夏の体が地面に頭から落下する。

 嫌な音が脛椎から聞こえ、彩夏の首が妙な角度に曲がり、視界が真っ暗になった。


 数分後──ガキッという音が聞こえ、彩夏の視界が元にもどる。

 彩夏は、いつの間にか喫茶店のテラス席の椅子に座っていた。

 テーブルを挟んだ向かい側の席には、召喚請け負い業者の男とピンク色の魔女っ子少女が座っていた。

「あれ? あたし、いったいどうなって?」

 召喚請け負い業者の男が言った。

「十分間か、最初にしてはまあまあだな。剣術の稽古も終わったから魔勇者退治に出発してくれ」

 召喚請け負い業者の男が、ピンク色の魔女っ子を彩夏に紹介する。

「ここにいるのは、魔女っ子レミファだ……魔勇者を倒すパーティーのリーダーを探していた。彼女と一緒に仲間を集めて魔勇者を倒してくれ……頼むぞ」

 邪魔魔女レミファが言った。

「よろしく、彩夏どの」 


 ふっと、レミファの肩の辺りを見ると、黒い奇妙な生物がいた。

 真っ黒で、尖った耳とワシ鼻、吊り上がった目と耳まで裂けた口、鋭いカギ爪の手と黒いコウモリの羽と先端が矢印状になった尻尾。

 景品のヌイグルミくらいの大きさの、その生物はレミファの肩に両腕を乗せて彩夏の方を見ていた──どう見ても、悪魔そのものだった。

 彩夏はレミファに、肩にいる謎の生物について質問してみた。

「その肩のところにいる、黒い変なの何?」

 レミファがサラッと答える。

「悪魔です、あたしは悪魔から力を貸してもらって反射魔法が使えるので……あたしは死後、悪魔との契約で魔界で悪魔に生まれ変わって。ある悪魔軍団の一員になるのが決まっています」

「悪魔と契約って」


「アチの世界の魔女っ子アニメとやらに登場する、マスコット的なキャラだと思ってくだされば、害はありません滅多に出てきませんから……旅のリーダーとなる彩夏どのがどんな人物なのか、魔界から見に来ただけですので……では、仲間を集めて魔勇者倒しの旅に出発しましょうか」

 肩にいた悪魔が消えると、レミファは椅子から立ち上がった。


 彩夏の最初の冒険がはじまった。


  ~おわり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る