第5話ぐうの音はだせる
「まあその程度なら全然構わない」
「なら行こう! 今すぐ行こう!」
そういうとメアはクロの手首をガッチリつかむと引きずるようにクロを急かすのであった。
◆
そして引き擦られて連れて行かれた場所には不機嫌なのを隠そうともせず腕を組みどっしりと背もたれにもたれ座る長身で筋肉髭もじゃ親父とさその隣には人の良さそうな35歳前後に見える少しポッチャリした女性が座っており、テーブルを挟んでクロ・フリートを値踏みするかのように見ている。
しかも自分が体験した事ある空気とそっくりなのだが何故か思い出せずにいるとメアがポッチャリした女性の反対側にある席に座ると自分の隣の席に座れと目で合図する。
その表情は何故か青いタヌキから不思議な道具を借りてガキ大将の前に現れた眼鏡キャラを思い出す。
メアに促され席に座ると場の空気が更に緊張感を増す。この辺りでこの独特の空気が今まで心の奥底に沈め固く蓋をした思い出の一つにそっくりなことに気が付いた。
それは元の世界にいるだろう妻の両親に初めて挨拶に行った時と似た緊張感なのである。
もう10年前になる懐かしい思い出に浸っているとメアが口を開く。
「連れてきたわよ糞親父。なぁーにが『お前みたいな犬も食わないじゃじゃ馬娘なんかを好んで結婚する奴なんかおらんわ! もし居るのなら儂の目の前に連れてくるんだな。まあ今まで17年間彼氏どころか色恋のいの字も無かったお前には無理な話だろうがなガハハハハハ。もし連れて来たんならこの見合い結婚の話は無かった事にしてやるってもんよ! ガハハハハハ』よ。私が本気になれば私と結婚したいって男性は引く手数多なんだからね!ホホホホホホ」
鬼の首を取ってきたようなどや顔で目の前の筋肉モジャモジャ親父なのだろう物真似をし終えると高らかに笑い出す。
その顔と態度は当事者でない俺ですら実に腹が立つ。一発殴ってやりたい程のドヤ顔だ。
「何が引く手数多じゃ! なら人間を連れてこい人間を! どうせこの男性も勢いだけで何も説明せず倒れてる所を半ば強引に連れて来たんじゃろうが!」
「ぐぅっ」
あ、ぐうの音はだせるんだ。
メアの父親であろう筋肉モジャモジャ親父のほぼ当たっている反論に額から汗が出始めるメア。この俺をこの場に連れて来ただけで勝てると思っていたに違いない。
もしこれがゲームであり筋肉モジャモジャ親父が倒すべき敵であるなら「そんな装備で大丈夫か?」と言ってやりたくなる詰の甘さである。
まあ言ったところで「大丈夫だ問題ない」と返して筋肉モジャモジャ親父に負けて帰るのがオチだろう。
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