第35話 マーマ国王は鬼畜でした

「なんと、使者はシャラなるものに殺されたのか」

国王は驚いて言った。


「はっ、爆裂魔術で跡形もなく」

宰相のジンデルが報告した。


「おのれ、シャラめ、我が使者を殺すとは我が国に戦争を仕掛けるつもりか」

国王は切れていた。この巨大軍事国家のマーマ王国に逆らうなど許せなかった。


しかし、もともと、ダレル王国に侵攻したのはこのマーマ王国なのだ。シャラの娘を殺そうと意図したわけではなかったが、現実はそうなっていた。シャラにとっては戦争を仕掛けてきたのはこちらだという認識があるのだろう。

それも、シャラはこの軍事国家マーマ王国の精鋭1万人を一瞬で殲滅させているのだ。お詫びの使者でも送って来いと怒っているのかもしれない。国王には言えなかったが、宰相はそう思っていた。


「陛下。我が国はまだ、第一師団を殲滅されて傷が癒えておりません。ここは、属国のノザレ王国から、手を回したほうが良いかと思われますが」

ジンデルが提案する。


「何じゃと」

きっとしてキャメロンは宰相のジンデルを睨みつけた。今後の憂いが残ると兄一族を幼子も含めて皆殺しにしたキャメロンだ。怒り狂えば宰相と言えどもただでは済まない。

ジンデルはヒヤッとした。


「はっ、臣に策がございます。何卒おまかせいただけてれば」

内心ヒヤヒヤしながらジンデルは平伏した。


「策か」

キャメロンはジンデルを見ながら考えた。


「しかし、弱小国のノザレでなんとかなるのか」


キャメロンの言葉にジンデルはホッとして答えた。

「まともにやっては瞬殺されましょう。何しろ我軍の精鋭ですら瞬殺でしたから」

「ではどうするのじゃ」

「シャラのネックはその娘だそうです。その娘をノザレの精鋭に拐わさせるのです。それを人質にとって交渉させれば何とかなるのではないかと」

ジンデルは薄ら笑いをして言った。


「左様じゃな。良かろう。その方に任す」

「御意。直ちにノザレに使者を送ります」

「ふんっ、これで生意気なシャラとかいうものが我軍の傘下に入ればダレルは我が物になるな」

国王は高笑いをした。


ジンデルにはそう簡単に話が進むとは信じられなかったが・・・・




オードリー・マーマは後宮の一室で子供服に刺繍をしていた。ただただ一心に。


「精が出ることだな」

「陛下」

その部屋に国王キャメロンが入ってきた。オードリーの体が強ばる。


もともとオードリーは前国王の次男アルヴィンの妻だったのだ。

10年前の王弟反逆の時は、身ごもっていた。その子の命の助命のために、キャメロンに身を任せたのだった。

襲いかかってきたキャメロンに泣き叫び抵抗しようとしたオードリーに、キャメロンはお腹の子供がどうなっても良いのかと脅したのだ。その言葉の前に抵抗することを止めたオードリーはキャメロンに抱かれた。鬼畜のキャメロンによって何度も。愛するアルヴィンを処刑した男によって抱かれたのだ。嵐がすぎさるのをオードリーはひたすら耐えた。


それから何度もキャメロンの欲望の前に抱かれた。


オードリーの希望だったそのお腹の子供は、しかし、流産した。


オードリーはその前に泣き崩れていた。


その悲しみに明け暮れるオードリーを、鬼畜なことにまた、キャメロンは抱いたのだった。

もうオードリーにとってはどうしようもなかった。

嵐が去るのをただひたすら耐えた。


アルヴィンと一緒に死ぬ事も出来ず、その子供を守ることも出来ず、その上キャメロンの子供まで孕まされたのだ。


そのオードリーの細身の体にキャメロンは手をかけた。

「陛下お止めください。まだ昼間です」

「良いではないか。人払はしておる」

その体をかき抱く。


「ジェイクが」

「誰も入れるなと言ってある」

キャメロンはオードリーを乱暴に傍のソファに押し倒していた。


(アルヴィン様)

オードリーはその時に処刑されたアルヴィンを思い出していた。


二度と会えないアルヴィンを。


自分は仕方がないことだとはいえ、憎き仇に躰を弄ばれて、あまつさえその子供さえ身籠ったのだ。

そして、今もその憎き男に抱かれている。


もう地獄に落ちるしか無いのだ。


キャメロンは地獄の責めにも思える時間をただ、ひたすら耐えた。


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