第15話 大賢者は国王を一喝しました
ジャルカはそのまま、慌てて王宮に行こうとした。確かめたいことが出来たのだ。
しかし、入り口で門衛に止められた。
「何故じゃ」
ジャルカは驚いて言った。元筆頭魔導師のジャルカが入り口で止められるとは思ってもいなかったのだ。
「あなたの立ち入りは禁止と聞いている」
門衛の一人が言う。
「誰の命じゃ」
ジャルカは切れそうになりながら聞いた。
「筆頭魔導師様のご命令だ」
「バーナードの。儂はそのバーナードに聞きたいことがある。直ちにバーナードをここへ呼べ」
「何を言う。バーナード様は今お忙しい。貴様などにお会いになられはせんわ」
もう一人の門衛は上から目線でジャルカを見下した。
「おいっ、小童。貴様誰に向かって話しておるのか理解しておるのか」
ジャルカがズイっと前に出た。
「おのれ、逆らうのか」
「小賢しいの」
「魔導師など怖くないぞ」
震えながら門衛がいう。
ジャルカは更に一歩踏み出した。
止めようとした門衛達はジャルカの作る障壁で弾き飛ばされていた。
そして、更にジャルカが歩くと凄まじい発光とともに城全体に展開していた障壁が一瞬で消滅した。
「ええい、出会え、出会え」
門衛の声とともに騎士や魔導師が次々に飛び出してきたが、そこにいたのが元筆頭魔導師であるジャルカと知って皆驚いた。
「ジャ、ジャルカ様。いかがなされたのですか」
宮廷魔導師の一人の リリアン・アクランドが尋ねた。
「バーナードがまた良からぬことを企んでいると聞いての。止む終えず出てきたまでじゃ」
「筆頭魔導師殿がですか」
「まあ、バーナードでなくとも良い。リリアン」
「はい。お師匠様」
宮廷魔導師を20年以上続けているリリアンも当然ジャルカの指導を受けており、ジャルカが師であった。20年以上続けている多くの魔導師の古株も当然ジャルカが師であり、上に立つものの大半の師がジャルカで、ジャルカに逆らえる魔導師などいなかった。
「今バーナードが企んでおることを話せ」
「いえ、しかしこれは機密事項でありまして」
リリアンは躊躇った。
「構わん。申せ」
更にジャルカが促した。
「申し訳ありませんが、国家機密の漏洩は」
「どうしたのだ。騒がしい」
そこには近衛兵を従えた国王のアーノルドがいた。
「こ、国王陛下」
ジャルカ以外の者が全員頭を下げた。
「これはこれは勝手に筆頭魔導師の職を投げうって出ていったジャルカではないか」
アーノルドは嫌味を言った。
「何用で参ったのだ」
「バーナードが良からぬことを企んでいると聞きましての。それを確かめに参った迄。別にバーナードに聞かずとも陛下からお伺いしてもよいわけで」
ジャルカはちょうど良かったと国王を見た。
「何の話だ」
「バーナード様がいまやろうとしている事を教えろと言われまして」
リリアンが国王に答えた。
「それはいくらジャルカの頼みでも言えん。国家機密じゃからの」
「ほう、国家機密ですか」
ジャルカはニヤリとした。
「まあ、それならば宜しかろう。では国王陛下。ご確認したいことが」
「何じゃ」
警戒しつつ、国王は聞いた。
「全ての法の上に立つ物は何ですかな」
「儂じゃ。国王がすべての方の上に立つ」
その言葉を聞いてジャルカは笑い出した。
「何を笑っておるのじゃ」
不機嫌そうにアーノルドが言った。
「陛下冗談も休み休みにおっしゃって下さい。あまりにもご自身の無能さをさらけ出しておりますぞ」
「な、何じゃと不敬な」
国王がまなじりを上げて怒った。
「司法長官ブリエント」
ジャルカは国王の側にいた司法長官を呼んだ。
「はっ。こちらに大賢者ジャルカ様」
呼ばれたブリエントは慌てて飛んできた。
「な、何。大賢者だと。貴様が3百年前にも生きていた大賢者だと申すのか」
アーノルドは目を見張った。
「ほう、その方はそこの無能の国王と違って理解しておるのか」
ジャルカは国王の言葉は無視して確認した。
「すべての法の上に立たれるのは大賢者様でいらっしゃいます」
「な、何だと」
その言葉にアーノルドは目をむいた。確かに大賢者は偉大だと知っていたが、国王の上に立つわけはなかろうと思った。
「始祖の法に、たとえ国王と言えども大賢者の言う事に逆らうなかれとございます」
「ふんっ。わしのことなどどうでも良いわ。そうじゃ。始祖の法が全てに優先されるということで良いな」
「はい。当然でございます」
司法長官が頷くのを見るとジャルカは国王をも睨みつけた。
「国王陛下もそれで宜しいな」
アーノルドは頷いた。それならアーノルドも納得できた。
「その中に国王の資格があったの」
「はい。確かにございます」
不審そうにブリエントが聞いた。それがどうしたというのか。
「国王が破ってはいけないものは何か」
「陛下でございますか。民の期待でございますか」
「それは心得であろうが。そうではない。死にゆく者に対する約定じゃ」
ブリエントはそのジャルカの一言に青くなった。
たしかにそれははっきりと記載されていた。それを今ジャルカが話題に出すということは・・・・
「確かにございます」
「前国王は、シャラと結ばれたな」
「えっ、いやあの」
「ジャルカ。結んだというのはその生贄の娘と皇太子との婚約のことか」
思わずアーノルドが口を挟んだ。
「左様でございます。前国王陛下は国のために死にゆく者シャラと確か約束したと聞いておりますが違いましたか」
「確かに父上はシャラとの間に娘クローディアと皇太子殿下の婚約をお約束されたが、それが死にゆく者との約定などと」
アーノルドは口ごもった。
「陛下。何をおっしゃっておりまする。誰がどう見ても国のために犠牲になるものが国王と約した約定でありましょう」
「・・・・・」
国王は答えられなかった。
「まさか、それを破棄それたわけではありますまいな」
ジャルカは畳み掛けた。
「いや、しかし、儂は署名しておらんぞ」
「何をおっしゃっているのですか。あなた様はその場におったとお聞きしております。そもそも死にゆくものの約定はその子子孫まで引き継がれますのじゃ。それだけ重い物ですぞ。その証拠に婚約の書面には始祖の印が押されていたはずですが」
「たしかに押されておったが」
アーノルドも青くなった。
「貴方様の父君がお亡くなりになる時に絶対に破っては行けないとおっしゃいませんでしたか」
アーノルドは思い出した。臨終の枕元に呼ばれたアーノルドは言われたのだ。どんな事があってもクローディアとアーサーの婚約だけは破棄してはいけないと。
「まさかそれを破棄されたわけではありますまいな」
「そのような。皇太子の婚約者が平民風情の命で左右されて良いわけがなかろう」
国王は叫んだ。
「愚か者!」
ジャルカは一喝した。
全員がその声に驚き平伏した。
そこには普段凡庸とした老魔導師はいなかった。国のいや、魔導師の世界の頂点に立つ大賢者ジャルカがいた。ジャルカの前に国王などひよっこに過ぎなかった。
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