第7話 娘は賢者に母のことを尋ねました

その日はクローディアはほとんど寝られなかった。実の母が自分の命を助けるために、犠牲になったなんて。今までは何故私をおいて勝手に死んでしまったのよと悲観にくれていたのだ。それが体が弱い、自分の命を救うために死んだなんて。クローデイアは知らなかった。


「私の為に死んでくれなんて頼んでいないじゃない。な、なんで勝手に死ぬのよ。私のことなんてほっておいてくれたら良かったじゃない」

クローディアは枕を思いっきりグーで叩いた。まだ若いクローデイアには母の想いなど判るわけはなかった。


結局クローディアは殆ど寝られずに朝を迎えた。


その日はアデラは朝も起きてこず、クローデイアは1人で学園に向かった。



朝一番の授業は陰険魔導師のジャルカの魔導実技だった。


一時期国王の不興をかって山に隠棲していたと噂されていたのだが、クローディアが魔導学園の1年になる時に突如として魔導学園に現れて、前国王との約束だからと頼んでもいないのにクローディアに魔術の訓練を始めたのだった。


この特訓はマンツーマンだった。


もともとジャルカはこの国の筆頭魔導師で宮廷魔導師の長だった。その能力はこの国一というか大陸一だとも言われていた。皆はそんなジャルカに師事しているクローディアを妬んで色々言ったが、クローディアとしてはたまったものではなかった。


ジャルカの特訓は厳しく、言葉もイヤミタラタラで、時に手も出た。


特訓のせいでクローデイアの体は生傷が絶えることはなかった。


クローデイアは魔力だけは人一倍あったのだが、不器用であり、中々ジャルカの指示するように魔術を使いこなすことが出来ず、いつもジャルカから注意を受けていた。


しかし、今日はいつにも増してクローディアの授業態度はひどかった。意識散漫で全然身になっていなかった。


「クローディア。何だその態度は。私が忙しい時間を割いてわざわざ教えてやっているというのに、心ここにあらずではないか」

「申し訳ありません」

ジャルカの注意にクローデイアは頭をただ、下げるしかなかった。


「もう、良い、今日はここまでじゃ」

「あ待ち下さい。訓練の続きを」

「貴様のような注意散漫ではこのまま続けても、無駄じゃ。命でも落とされたらことじゃからの」

ジャルカは強引に訓練を切り上げた。

「何があったかは知らぬが、明日まで心をもう一度整えて参れ。明日は儂の時間を無駄にするなよ。貴様の母シャラは一度もそのような事はいなかったぞ」

ジャルカはそう言うと立ち去ろうとした。


「ジャルカ様。母は、私の母シャラはどんな人だったのですか」

クローディアは本当は私の為に死んだのですかと聞きたかったが、流石にそうは聞けなかった。


「貴様の母か。能力はとてもあった。覇気もあり、度胸も座っておった。ただ、とてもお人良しじゃった。師に相談もせずに、あのような事をするなど、本当に馬鹿な奴しゃったよ」

ジャルカはそう言うとクローデイアを見た。

「何故そのようなことを聞く」

「いえ、少し気になったもので」

クローディアは誤魔化した。


「そうか、1つだけ言っておく。自らの命を母のように粗末にするな。そう言う時は必ず儂に相談するのだ。良いな」

クローディアが辛うじて頷くのを確認するとジャルカは歩き出した。


「変じゃの。今まで母の話などしたこともないのに」

ジャルカは首を傾げて歩き出した。

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