第二章 クローデイアも愛しい人に裏切られて生贄にされてしまいました

第5話 娘は約束とは違い苦労を重ねていました

そして、年月が流れた。何回も春が来て夏となり木の葉が真っ赤に染まり散っていった。

病弱な赤子だったクローティアも薬のおかげで病も治り、健康な少女になっていた。

伯爵家で大切にされているかと言うとそれは微妙だったが。

クローディアの一つ下には見た目は天使のような銀髪のアデラという妹が出来ていた。伯爵夫妻はその妹を溺愛していた。そして、当然のことながら甘やかし放題な妹はわがまま三昧に育っていた。妹には父も母も甘く、そのつけは全てクローディアに来ていた。



クローディアは18歳になっていた。魔導学園の最上級生の3年生だった。


午前中の授業が終わり、昼休みに入った。クローディアは作ってきたお弁当を一人で広げていた。魔導学園のクラスは2クラス。昔は貴族と平民は一緒だったみたいだが、今は別れていた。


クローディアは平民の実母が死ぬ前に義母に託していったそうで、


「お情けで養ってあげているの」

義母からは小言をもらうたびに言われていた。


皇太子の婚約者になったのは、前国王がクローディアの母の願いを叶えたからだそうで、

「何で平民風情の娘が我が子の婚約者なんだか」

王妃教育でも散々王妃からは嫌味を言われていた。


確かにクローディアから見ても平民の子供が皇太子の婚約者でいることは不思議なことだった。


前国王のご落胤という噂もあったが、それが事実ならばもう少し王宮や実家でのクローデイアに対する待遇が違うはずだった。クローディアは今は殆ど使用人のように扱われていた。


義母から疎まれ、王妃からも蔑まれていたクローディアに友人がいるわけもなく、貴族社会の中では孤立していた。


「クロウ、どうしたんだい。今日も一人なのか」

そのクローディアに声をかけてくれるのは皇太子のアーサーだけだった。


「他の令嬢たちとは仲良くなれないのかい。何なら私から声をかけようか」

アーサーだけはクローディアを決して邪険にはしなかった。一人ぼっちでいるクローディアのことを本当に心配して令嬢たちにも仲良くしてくれるように声を掛けるのだが、どうしても逆効果になるみたいで、クローディアの方から止めてもらっていた。


「ありがとうございます。皇太子殿下。しかし、そのようなお気遣いは無用に願います」

クローディアは頭を下げた。

「それよりも、皇太子殿下も今は色々と大変なのではありませんか」

クローディアのほうがアーサーを気遣った。


クローディアの住んでいるダレル王国は小さな国だった。王都ダレルを中心に300年の歴史があっが、近年は隣の国マーマ王国の伸長が激しく後塵を拝していた。

マーマ王国の前国王とダレルの前国王は仲が良かったので、そうでもなかったが、双方が代替わりしてからはそれが顕著になっていた。

マーマ王国の新国王は強力な軍の力をして、各地に侵略を行おうとししていた。


新国王はまず、現皇太子アーサーにマーマ王国の人質になれと脅しをかけてきたのだ。マーマ王国は強大とは言え、300年の歴史あるダレル王国が飲める話ではなかった。

この話を蹴るとマーマ王国との関係が更に悪化し、3日前にマーマ王国から更なる使者が来ていた。無理難題を言ってきたに決まっているのだ。クローディアの身分では何も判らなかったが、皇太子が今大変な立場にいるのは考えるまもなく判った。

マーマ王国から王女が嫁入りしてくる可能性もあり、そうなればクローディアとの婚約も無くなるだろう。そうなった時は仕方がないとクローディアは半ば諦めていた。


「ありがとう。クロウ。でも大丈夫だよ。君たちにまで心配をかけて申し訳ないね。別に私が人質に行ってそれで収まるならばそれで良いのだが、なかなかそう言うわけにも行かないみたいで・・・・いや、すまん。今の発言は忘れてくれ」

皇太子が首を振って言った。皇太子は本当に疲れているみたいだった。


「アーサー様」

明後日の方角からとても脳天気な声が響いてきた。

「アデラ」

走ってきた令嬢はクローディアの妹だった。

「アーサー様、探してもいらっしゃらないと思ったらお姉さまに捕まっていらっしゃったのね」

アデラはクローディアに見せつけるようにアーサーに腕を絡めた。


「何を言っているんだ。君の姉は私の婚約者だ。私が話していても問題なかろう」

「それよりもアーサー様。もうお腹がぺこぺこなんです。早く食堂に行かないと食事が無くなってしまいますわ。急ぎましょう」

アデラは話題を強引に変えていた。

「本当にアデラは食い意地が貼っているんだな」

「まあ、アーサー様、酷い」

そう言いながらアデラはアーサーを引っ張っていった。

アーサーはクローディアに手を降って引っ張られていった。


それを見てクローディアは溜息をついた。いつもアデラはこうだった。


「お姉さまがアーサー様の婚約者だなんて酷い!」


アデラには小さい時に散々ごねられたのだった。


しかし、アーサーとの婚約はアーサーとクローデイアが生まれた時から決まっていることだった。前国王とクローディアの実の母の間で結ばれた婚約で義母や王妃ではどうしようもなかった。


前国王が健在の時は母も王妃も国王を気にしてここまで露骨にクローディアに当たってこなかった。


最近だった。二人がきつく当たるようになったのは。それを見て他の貴族令嬢たちもクローディアとの距離をおくようになったのだ。


もうクローディアの味方は律儀な皇太子くらいだった。


クローディアは本当にアーサーのことが好きだった。


たまにしか会えなかったが、会えば優しかった。


でもこの関係もいずれはなくなるかも知れない。


クローディアは不安だった。

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