第13話 友達

「けっ! 頭でっかちの根性なしのマンジ程度が、上に上がれるわけあらへんわ!」


 僕たちが笑い合っていると、タケチ達留年生3人組がいつものように僕に絡んできた。

 これを見て、タツマとサヨは何か言い返そうとしたが、僕は手で制した。


「いいよ、二人共。僕はどう言われようと関係ないから」

「ほぅ? 上のクラスのお友達がおると粋がるやんけ?」

「そうなのかな? でも、僕はもう上を向いていくから」

「上等やんけ! やれるもんならやってみいや!」


 タケチは凄んでみせたが、僕は一歩も引かなかった。

 意地でも引いてたまるか!


「おう、ダブりの先輩方。マンジに手え出すんなら、俺も黙ってねえぜ!」

「そうよ! あたしもただじゃ済まさないわよ!」

「私も許しません!」


 タツマとサヨだけじゃなくて、ディアナまで僕をかばってくれた。

 これを見て、タケチたちは僕たちを睨みつけて歯ぎしりしている。

 タツマたちが一歩前に出ると、タケチたちは悪態をついて帰っていった。


「ありがとう、みんな」

「良いってことよ! 友達なら助けて当然だろ?」

「そうそう」


 タツマは僕の肩に腕を回して屈託なく笑い、サヨも明るく笑った。

 ディアナもコクコクと頷いてくれて、僕は本当に友達に恵まれている。

 僕も笑顔がこぼれた。


「ふん! チャラチャラしていて余裕だな? そんなことで私に勝つつもりか、サカノウエ・タツマ?」


 現『英雄王』の息子トクダ・ムラマサが、魔法科特等クラスの双子の少女たちを引き連れてきた。

 冷静というより、いつも不機嫌そうだ。


「へ! そういうあんたも、女をハベラせといてよく言うぜ!」

「シズとチズのことか? 彼女たちは、親が決めたただの従者だ。邪推するな?」

「はん! このムッツリスケベが! 年度末の入れ替え戦で吠え面かかせてやる!」

「出来るものならやってみろ! 今回はミカエラに勝てなくて二位だったが、次回は首位に立ってやる!」


 タツマはムラマサと睨み合った。

 特等クラスの実技の実力を生で見た僕にとって、彼と張り合っているタツマがすごい男だとつくづく思う。


「はっはっは! 今年の新入生たちも熱いですな」


 と、僕の後ろで様子を見ていたヤマウチ達教官らが話し合っているのが聞こえた。


☆☆☆


 僕がいつも通り、人気のない場所でクロを幻獣召喚で呼ぼうとした時だった。

 タケチたちが悪意のある顔つきで僕を取り囲んできた。


「マンジー、さっきは調子に乗ってくれたやんけ?」

「そんなことはないよ。僕はただ……ぐぅっ!?」


 タケチたちにはいつものようにやられた。

 僕がクロとの修行で強くなったからといっても、3人がかりでは勝ち目はなかった。

 

「へっへっへ! こないだはまぐれで一発当てたからってナメんなよ!」


 以前倒したタケチの取り巻き(未だに名前を覚えていない)は、執拗に僕を殴りつけている。

 体中が痛い。

 でも、屈してたまるか!


「何だよ、その目は!」

「がぁ!? ……何だよ、それ? 全然痛くないけど?」


 僕は強がって更に挑発した。

 気持ちだけは絶対に負けない!


 タケチの取り巻きは更に頭に血が上ったのか、外からは見えない部分だけを痛めつけていたのに、ついに顔面も殴ってきた。

 これには、さすがのタケチですら焦って止めに入った。


「な、何やっとんねん、アホンダラ! 目立つとこに手え出すなや!」

「止めんなよ、タケちゃん! もうこいつはぶっ殺して……」

「お、おい! 止めろって、人が来てるぞ!」


 誰かが僕たちに気がついてこちらにやってきているようだ。

 タケチたちは減点を恐れて逃げていった。


「……また、やられたのね?」


 やってきたのはミカエラだったようだ。

 僕は体を起こして地面に座り込んだ。


「うん、ちょっとは強くなったと思ったけど、まだまだダメだったよ」

「でも、屈さなかったわね?」

「うん、気持ちだけは負けたくなかったんだ」


 と言って、僕は強がって笑った。

 ミカエラは、そう、とだけ言って回復魔法をかけてくれた。


「じゃあ、私はもう行くわよ」

「あ、待って!」


 ミカエラは要件が済んだらすぐに行ってしまおうとしたので、僕は慌てて引き止めた。

 足を止めて僕の方を振り返った。


「こないだはごめん!」

「こないだ?」

「前に助けてもらった時に失礼なことを言って。ずっと謝りたかったんだ」

「……ああ、あのことか。私の方こそ、冷静じゃなかったわ」


 ミカエラはペコリと頭を下げた。

 僕も同じように頭を下げた。


「実は、君が強くなろうと誰よりも努力しているって聞いて。それで、僕も強くなってやるって決めたんだ。いつかきっと、僕は君と釣り合いの取れるように強くなってみせるから。だから、友達になってくれないかな?」

「友達? 私は、友達ってどういう関係なのか、よくわからないの。それでも、いいの?」

「うん! 僕は君の足を引っ張らないし、僕が君に追いついてみせるから!」

「……そう。わかった」


 夕日が眩しくて、ミカエラの表情がよくわからなかった。

 笑っていてくれたら嬉しいな。

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