第19話 逆襲

 特殊部隊の隊員たちは、洞穴から堂々と出てきたミカエラを見て、安堵に胸を撫で下ろした。


「ふぃ、お嬢がどこぞの馬の骨に誑かされておるのかと思うと気が休まらんわい」

「むむ、じっちゃん。マンジ少年はそういうやつじゃないよ」

「のんきだな、このお姫様は。十代の男はみんな下半身で生きてんだぜ。なあ、ウーゴ?」

「オ、オレ、シラナイ」

「何いい子ぶってんのよぅ、このゴリラはぁ。すぅぐ盛るくせにぃ」

「あの、みなさん? 無駄口叩いて作戦を忘れないでくださいね?」


 特殊部隊副長『臥龍』リーは、自由奔放な隊員たちに釘を差した。

 このやり取りは毎度のことではあるが、今回は娘のように大事にしているミカエラを陰ながら見守らなければならないため、リーはいつになく厳しい口調だ。


「わかってんだよ、リーさん。オレが作戦無視した事あったっけ?」

「何言ってんのよぉ、このとっちゃん坊やはぁ。すぅぐキレて突撃するくせにぃ」

「ウン、グレン、タンキ」

「オヤジはボクをワガママって言うけど、とっちゃんほどじゃないよ」

「……姫も大概じゃろ?」

「……私からしたら、みんな大して変わりませんけどね」

「「「「「あ!?」」」」」

「……いえ、何でもありません」


 こうして白髪が日々増えるのだな、とリーは思った。


☆☆☆


 僕たちは、再び戦場に戻ってきた。


「ぬう? ヤツラはうぬを探しておるようだぞ、娘よ? まさかここまで執着しておるとはな」

「え? どういう事なの、クロ?」

「あら? マンジくんは知らないのかしら? 奈落の守り人と異世界の悪魔の因縁を?」


 僕が首を捻っているとミカエラは意外そうに僕の方に顔を向けた。

 こんな状況なのに勝手に胸が高鳴った。

 でも、気を取り直して考えてみたが、僕の記憶には情報はほぼなかった。


「えっと、神聖教会の聖書で読んだことはあるけど……」

「それもそうね。この国の人はそれほど詳しくは教えられないものね」

「今は細かく教えている暇はない。奈落の守り人は異世界の悪魔を狩る者だ。だが、帝国の上層部に異世界の悪魔共が巣食っておるから、神聖教会の各国とヤマト王国以外の奈落の守り人の血筋の者は、今では逆に異世界の悪魔によって虐殺されておる」

「そ、そんなのって……」

「でも、それがこの世界の現実よ」


 厳しい目をして歯を食いしばったミカエラに、僕は何も言えずに口ごもってしまった。

 もしかして、ミカエラが強くなりたい理由って……


「さてと二人共、今は目の前のオーク共に集中せい。コヤツラを軽く蹴散らせねば、異世界の悪魔を相手にしようなど、夢のまた夢だぞ、娘よ?」

「わかってるわよ。マンジくん、準備はいいかしら?」

「う、うん!」

 

 気合を入れ直したミカエラは、静かにオーク達の背後に忍び寄って確実に一体ずつ倒していき、ミカエラに気づいた伏兵が声を上げる前に僕も背後から倒した。

 戦場に綺麗も汚いもない。

 無勢である僕たちに手段を選んでなどいられないのだ。


 そして、敵はオークだけでは無い。


 ミカエラに矢を放ったのは、オークではなく帝国兵だとクロは気づいた。

 しかも、帝国兵はただの兵士ではなく、暗部という暗殺者で今の僕たちでは手に余る相手だった。

 どこから襲ってくるかわからない暗殺者はクロに任せ、僕とミカエラはオークの相手に専念した。


 僕たちはオークの数を出来るだけ減らし、上位個体とは最後まで直接戦わないゲリラ作戦を取った。

 この作戦のおかげで、百体以上いたオークたちは徐々に数を減らしていった。

 しかし、オークの指揮官オークジェネラルはバカではなかった。

 見るからに半数まで減った兵たちに気づき、警戒を強めた。


「へい、ブサイク共! 僕はここだよ、かかってきな!」


 でも、僕は不意にオークたちの前に姿を現し、挑発した。

 こんな単細胞共の考えなんてお見通しだよ!


『ピギャー! ピギャギャ!』


 オークたちは簡単に挑発に乗り、更に半数の二十体以上で僕を追いかけてきた。


 うわ!

 やっぱり、怖い!


 僕は全速で逃げ、オーク達を引きつけた。

 後少しで追いつかれそうだ。


『ぴ、ピギャ!?』


 しかし、オークたちは見えない壁にぶつかり、ひとかたまりになって倒れ込んだ。

 実は、祖父の封印されていた蔵の中にあった簡易結界を罠として仕掛けていたのだ。

 この中にオーク達を閉じ込めた。


「火の精霊サラマンダーよ、我に力を与え給え。燃え盛る赤き炎を喚び起こし、灼熱の業火となれ! 大炎弾グラン・フレーマ!」


 その中に、ミカエラの詠唱された大魔法の巨大な炎を放ち、逃げ場のないオーク達を焼き尽くした。

 上位個体のハイオークもいたが、この炎の威力の前では無力に黒炭と化した。


 魔法の詠唱で無防備になったミカエラを狙い、帝国の暗殺者たちは矢を放ってきたが、クロが全て迎撃した。

 ここで、帝国の暗殺者は退却しようとしたが、クロに追撃され仕留められた。


「うむ、これで帝国兵はいなくなった。残りはオークたちだな」


 クロが言うと同時に、残りのオークたちがやって来た。 


「はぁあああ!」


 そこで、ミカエラは意を決して敵の指揮官オークジェネラルとの一騎打ちに出た。

 オークの親衛隊たちが立ち塞ごうとしたが、クロに蹴散らされた。


「フハハハ! 何だそれは? 話にならんわ!」

「は、はは、クロはスゴイなぁ。……さて、僕の相手はお前だな?」


 そして、僕は副官らしきハイオークと対峙した。

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