12 panic

protagonist: architect - sentinel:


 盗聴された声が響く。

内通者「対象は逃走を図り、行方はわかりません」

 何かが衝撃を受けた音が響く。

議員「なんでそんなこともわからない!」

 それに答えが返ってくる。

内通者「追跡していた者たちが、全員死亡したからです」

 沈黙の後で、声が訊ねる。

議員「学校に行った連中、全員か」

内通者「はい、情報提供者が現場で死亡を確認したとのことです」

 さらに沈黙の後、声は怯えたかのように震えていた。

議員「ありえない。なんで、襲撃を連中は知っていたんだ」

 そこで、僕はゆっくりとAirPodsProを取りはずし、ガスマスクをつけた。そして、前を歩く武装した警察たちが、その厳かな会議室に押し入った。そして銃を突きつけ、全員に手を上げるように怒号を上げる。

 そこで話していたスーツの連中は、全員固まっていた。だが、更なる怒号とともに、全員が従う。警察の人たちがキャビネットを開き、その書類を段ボールに詰め始める。ひとりの男が訊ねた。

議員「なんなんだ急に」

 そこで僕はiPhoneを掲げて答えた。

主人公「殺人の教唆をしましたね、先生」

 手を頭の後ろで組んだまま、その男は訊ねてくる。

議員「お前は誰だ、顔を見せろ」

 僕が沈黙を続けると、男はさらに訊ねて来た。

議員「盗聴は国のすることなのか」

主人公「先生がたもしていたでしょ、その、情報提供者とやらで。彼らとのコネは、連合国軍最高司令官総司令部GHQから得たものだ。彼らの期待を裏切ってね」

 男が怯むなか、僕は誰も座っていない椅子を部屋の中央へと引きずり、やがて腰がける。そして書類やコンピュータだけを押収していくその様をまじまじと見つめる。そこで、男は何かに気づいたように訊ねた。

議員「捕まえに来たんじゃないのか」

 僕は頷く。

主人公「ようやく状況が掴めたようで」

議員「じゃあなんで押収する」

主人公「保険ですよ。これから実施する取引のための」

 怯えるような表情の相手に、僕は言った。

議員「先生がた議員の皆様……失礼、元議員の人もいましたね。全員、揃いも揃ってかつて銀行の資金洗浄マネーロンダリングで捕まることはなかった。その意味を、ちゃんと考えるべきでしたね」

 議員の男は憎しみの表情を浮かべ、

議員「こんなのは不当だ!」

主人公「ええ、導かれるはずの人民にとっては。あなたがたに払われた税金がテロに使われていたとなれば、もってのほかです」

 他の元議員が応戦する。

議員「これが警察のやることですか!」

主人公「テロが先生たちのやることならば」

 言葉に窮する元議員は、怒りの眼差しを向けてくる。だから僕は議員たちに言った。

主人公「先生たちは投票によって選ばれているはずだった。けれどその手法には致命的な問題が確認されている。アメリカやイギリスで問題視されたデジタル広告注入を繰り返せるほど、この国の教え子たち……官僚や警察、人民は、甘くはないですよ」

議員「何が悪い」

主人公「先生と慕う人たちと、対等に接しようとしなかった。先生として失格というには、十分でしょう」

 呆然とする彼らに、僕は言った。

主人公「判断するための材料が少なく、全員の意見の中間を取ろうとするやさしい教え子たちを、食い物にした。特定のイデオロギーに染め上げるような広告やアカウントを作って誘導し、そのくせ何も教え子の人たちに還元することもしなかった。これらの行動のどこに、人民の主権を信じ、先生として導く要素があるというのです」

議員「優先順位がある」

主人公「それを決めるのが、理念ではなく、この国を転覆させようとする勢力からの資金なんですね?」

 彼は言葉に詰まる。そこで僕は続けた。

主人公「慕ってくれる教え子たちからの支持を失い、それぞれの政党には献金がしぶられ始めた。そして代わりに台頭してきたのは、政府の規制を否定する国内外問わない、汚れた資本。ただ、それ自体をそのまま流し込むのは、本物の先生である行政に気づかれてしまう。だから汚い大人の生き方として、いくつかの資金洗浄を実行しなければならなかった」

 僕はかつての職場を思い出しながら告げる。

主人公「その中心に、資金洗浄マネーロンダリングを実施していた銀行が含まれていた。優先順位のトップは、その銀行にあった。だがその銀行すら、最強の先生、行政による強制捜査によって繋がりを絶たれてしまった。おかげで、あなたがた先生のなり損ないの資本は血で汚れすぎたまま。もはやただの電子データか紙屑」

議員「それでも我々はこの国でもう一度トップに立たなければならない。そうしなければ、この国は変われない。そのためになら、なんだってする」

主人公「ならば、取引です」

 議員はやがて、忌々しげに告げる。

議員「我々は何を得る?」

主人公「先生たちの数多の罪が、汚れが、脚本家スクリプターと共に消え去る」

 議員の表情は硬い。

議員「その対価は?」

 僕は合図を出し、警察の人にダンボールを持って来てもらう。その中には、押収したPCたちが入っている。その中のひとつを取り出し、ログインし、ある場所へとメッセージを英語で送る。そして僕は言った。

主人公「共に責任をとりに来てもらいますよ、先生」

 返事は返ってきた。それは、英語だった。

 そしてまた合図を出し、警察の人々に立たせる。それで議員達は意味を理解したようだった。

議員「彼らのところに行くのか……自殺行為だ!」

主人公「責任を負うのなら、仕方ないでしょう。先生」

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