5 return

protagonist: architect - sentinel:


 翌日。僕は自分の住むホテルのスイートルームで、制服のジャケットを袖に通した。そうして、自分の姿を見る。

主人公「なにも変わってないはずなのに、何かが足りない……」

 そして僕は、ここでユニクロの服についてぼやいていた時を思い出した。僕の両肩に手を添える彼女を。僕は部屋の中へと振り返る。そこには静けさだけが満ち、いるのは自分だけ。僕はそれから逃げるように、部屋を後にする。


 制服に再び袖を通した衛理と真依先輩とともにたどり着いた高校では、何事もなかったかのように生徒たちが登校している。僕たちもその流れに沿って歩いていく。衛理がつぶやく。

衛理「ほんとになにも変わってないね、ここ」

 僕は頷く。そして、ふと真依先輩へと振り返る。

主人公「そういえば先輩って別のクラスの人だったの?ほとんど会ったことなかったような気がして」

真依先輩「あなたの一個下だからね」

 僕は固まり、

主人公「僕が先輩だったなんて……」

 彼女は微笑んで僕を覗き込んでくる。

真依先輩「頼りにしたほうがいいですか、先輩?」

 僕は肩を落とす。

主人公「いや、今まで通りで頼むよ、先輩」


 僕たちは高校の屋上にたどり着く。その扉は立ち入り禁止、と書かれた紙と黄色と黒のトラ柄テープが張りめぐらされ、形が歪んでいる。それを見て衛理は言った。

衛理「これが教室の前で爆発してたとしたら、この学校は閉鎖されていたでしょうね」

 僕は頷く。

主人公「そして僕は、あいつに銃を向けられた時、言ったんだ。彼らは関係ないはずだって。けれど、彼はあると答えた。そして、未冷先生に助けられて、爆弾をなんとかできたんだ」

 衛理は僕の言葉を継ぐように続ける。

衛理「そして、未冷先生に空砲弾で撃たれた。多くを知りすぎたって」

 僕は頷く。

主人公「僕は作戦に参加したからだと思っていたけれど、もしもそれが、元生徒会長が言っていた言葉のほうを、この学校の彼らが関係があるはずだ、ということを意味していたとしたら……」

 僕はいくつものラックの並べられたサーバールームにたどり着く。僕の持ってきていたその鍵で、まだ開けられるようになっていた。そうして解錠して中に入り、二人を案内しながら、僕は言った。

主人公「ここのサーバーは、普通の学校ではありえないほど多い。それらを繋ぐネットワーク含めて冗長構成が為され、地盤さえ良かったならデータセンターに匹敵するレベルだ。だから僕は、スマホを忍ばせることが簡単にできた」

 そしてサーバーラックの中を見つめる。真依先輩は訊ねてくる。

真依先輩「ここの中に何か仕掛けたりはしていないの?」

主人公「いいや。そもそも中身を見たことがない。ずっと、ただのプロキシサーバーと授業用のイントラサーバーしかいないと思っていたから」

 衛理が訊ねてくる。

衛理「ここであんたお得意のシステムガジェットの用意は?」

 僕は首を振った。

主人公「今はしてない。できてもせいぜい攻撃だけかな。けれど、システムが更新されれば使えない、不確実な手法は使いたくない。ソフトウェアやハードウェアの不具合を突いて機能停止に追い込んだり、企業のデータを引きずり出すようなことは、結局高くつく」

 衛理はため息をつく。

衛理「攻撃と言っても人間の体にウイルスを流し込むようなもので、抗体ができているかどうかは外からはわからない、と」

 僕は頷く。

主人公「だから僕は君たちのように、コンピュータではなく人間の認識の中に入り込み、迷路の虚構へ導く。今も昔も、諜報員スパイの手法に変わりはないのさ」


 サーバールームを出て学校の中を歩いていくが、どこもかしこも、普通に高校生としての暮らしを行なっている。誰もが笑い合い、どこか眠そうで、穏やかな世界が広がっている。

 真依先輩はつぶやく。

真依先輩「そうすると、あとはここで何を探せばいいのやら……」

 衛理も唸り、考え込む。

 その時、ふと僕たちに気づいたように声をあげた生徒たちが三人やってくる。その一人が目を輝かせて言った。

生徒「お前久しぶりじゃん!心配してたんだぜ、主人公さんよ」

主人公「主人公?」

生徒「だってお前、爆弾を剥がして走り回ってたよな。あのおかげで俺ら助かったんだぜ?主人公じゃないならなんなのさ?」

主人公「僕は……」

 そう曖昧につぶやくなか、何か察したかのようにもうひとりの生徒は僕の肩を叩き、

生徒「でも、いつの間に転校してたから俺らびっくりしたぜ、でもここの制服ってことは、あんたも帰ってくるんだよな?」

 僕は訊ねていた。

主人公「僕が転校?休学とかでもなく?」

 え、とその生徒は言って、

生徒「新任の担任の先生から言われたぜ、そういう風に。あ、衛理さんのこともそういう風に聞いてたんだけど、もしかして手違いなのかな?」

 衛理へと振り向くが、彼女も首を振っている。そのとき、ふと振り返ると、スーツを着こなした大人が立っていた。僕はその顔を見て、思い出す。

主人公「財前さん……」

 生徒の一人が驚く。

生徒「あれ、先生とすでに知り合いなのか?すげえイカしてる先生だよな」

 財前さんの面持ちは、何かを予期していたかのように静かだった。

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