究極生命体2
「ふむ。初めて作ったにしてはボチボチの出来だな」
「私は博士の才能だけは尊敬していますよ。才能だけは」
「ふはははは! そうだろうそうだろう毒舌メイド!」
「才能だけは」
「ええい皮肉ってる事くらい分かっとるわ!」
研究室内に鎮座している鎧甲冑。これが実物の魔道鎧というものなのか。資料で見たバケツの様なものよりもずっと流線型だ。これがカッコイイと思う感情。
「それで博士、これをグレースに着せるんですか?」
「アルティメット様、なにを血迷ってそんな言葉が出て来たんです? 私の完璧なボディ見てそんな事が言えたのなら、究極生物専門の眼科に行くことをお勧めします」
「地上にはあるの?」
「ある訳ないじゃないですか」
「また騙したな!? メイドは嘘つかないって言っただろ!」
「それも嘘です」
やはりグレースは嘘つきだ。この前も残業に賃金が出ないなんて嘘を俺に教えていた。労働には対価が必要なのに。法律にだってそう書いてある。
「これは毒吐きメイドのフレーム試作品だ。単なる試しだから、適当に研究報告として出したら用は無い」
「あなたの頭も完成していないみたいですね爺。私こそが完璧なメイドなのに、フレームを軍用規格に合わせて如何わしい事をしようとするだなんて」
「うっさいわ! とにかくお前の装甲が気に入らん! マスター権限使ってでも改造してやる!」
「ちっ」
「こいつとうとう舌打ちまでしよった!」
まあ好きにして欲しい。グレースの言う通り、なんだかんだ博士は天才だからちゃんと仕上がるだろう。多分。
「しまいに性格設定し直すぞ!」
「おやおや博士とあろうものが。それはつまり、時計社のソフト開発者に負けを認めて、降参するという訳ですね。天才の順位は決まってしまったようです」
「ぐぎぎぎぎ!」
出た。グレースの必殺技だ。これを言われると博士は歯ぎしりして次の言葉が言えなくなる。グレースの性格プログラムは博士をして、ちょっとはいい仕事だと言わせるほどのものなのだ。つまり博士の性格プログラムからして殆ど敗北宣言に近い。
「もう知らん! 儂研究する!」
「どうぞごゆっくり」
おかしいな。こう言う捨て台詞の場合は寝るはずなのだが。ふて研究? そんな言葉辞書にあったかな?
「これだけ競争心を煽っておけば、私のボディが戦車になる事はないでしょう。なにせそれも敗北宣言ですからね」
「気合入れ過ぎてそう設計するかもよ?」
「その時は金属加工機にあの爺を放り込みます」
◆
◆
◆
「ふはははは! やっぱり儂って天才!」
舌打ちしながらメンテナンスベッドに横になったグレースを、博士曰くちょろまかした合金で作ったフレームのパーツに付け替えているが、何というか以外だ。フレーム交換前のグレースと寸分違わない。てっきり3メートルになって腕も10本くらいになると思っていたのに。尤もそれをしたら博士は金属加工機行きだが。
「さあ起動だ毒舌メイド!」
「起動します………よかったですね博士。ミンチにするのは止めておきましょう」
「なんつー恐ろしい計画立てとるんだ!」
「プログラム診断……ちょっと待ちなさい糞爺。フレームと私の収納魔法の一部が紐づいてますけど何をしやがりました?」
「ふははははは! まあ使ってみろ!」
「ちっ。"換装"」
メンテナンスべッドから立ち上がったグレースも、自分のボディが外見上変わっていない事に意外そうな表情をしている。アンドロイドからしても博士は信用ならないらしい。だが実際信用ならなかったようで、何かグレースの収納魔法に細工をしたらしい。このままでは、博士を見るのは今日で最後になるかもしれない。
「……言い訳を聞いておきましょう」
「いい訳もくそもあるか! 感謝するがいい毒舌メイド! これでお前は兵器として最強の存在となったのだ! 全存在で最強はアルティメットだがな!」
「かっけえよグレース!」
グレースの姿が一瞬だけブレたと思ったら、次の瞬間にはメイドではなく騎士甲冑がその場に立っていたが、その姿たるや、バケツの様な一般的な魔道鎧とは雲泥の差のカッコよさだ。間違いない。これが男の胸のときめきだ。
「儂の考えた新技術、魔力反応装甲によって戦車やミサイル、果ては大貴族が使う様な馬鹿威力の魔法まで、ありとあらゆる攻撃を防ぎながら、これまた新技術の高速飛行魔法によって空を飛び、またまた新技術の複数同時展開攻撃魔法によって、主力戦車を正面からぶち抜ける火力を搭載したのだ! 感謝するがいい!」
「死ね」
「直球過ぎだろこのメイド! もう毒舌とか関係ないじゃん!」
「大丈夫だよグレース! 滅茶苦茶かっこいいぞ!」
「いいですかアルティメット様。メイドにカッコイイなどとは侮辱です。こんな手弱女に対して」
「口ならアルティメットを差し置いて最強だったな」
「なんでまだ生きてるんです爺?」
「ひっでえ!」
グレースの髪と瞳の色と同じ青い魔道鎧はどこからどう見てもかっこいいのに、彼女はお気に召さない様だ。
「博士! 俺には無いの!?」
「え? 魔法攻撃と空飛べない以外は、スペックを全部上回ってるぞ? だから必要ないと思ってもう素材も無い。すっげえ希少な素材も使ったから、次いつ作れるかさっぱり分からん」
「ではこれをさし上げましょう。ええすぐに」
「え? いや、アンドロイド用のフレームと回路に仕上げたから、アルティメットが着ても意味ないし。いやあ、それにしても完璧に出来上がった! これで時計社のソフト開発部も儂には勝てんと証明できたぞ!」
この糞爺いいいい! 自分1人で満足してるんじゃねえよ! それとソフト開発部に勝つのに、どうして魔道鎧を作る発想になるんだ!
「これで気分よくアルティメットの最終調整に取り掛かれるってもんだ! わーっはっはっは!」
ふとグレースと眼があった。どうやら考えている事は同じらしい。
「ん? アルティメット? 毒舌メイド? ちょっと待て、何故引っ張る? ちょ!? それ金属加工機! 儂有機物だから! ぬおおおおおおお!?」
悪は滅びなければならないのだ!体
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