第1話の2 魔術学習の開始

 目が覚めてから一週間ほどが経ち、礼儀作法と武術と魔術の家庭教師がつくようになった。この世界では五歳になるまでは幼い子供として庇護を受け、五歳からは学生・生徒というか生きていくための勉強をする。身分によって家業の手伝いをしたりし始めるわけだ。例えば農民でも手伝いをするのは五歳からだ。幼時生存率が低い社会なのだろう。幼児に病気や事故で亡くなる率が高い、中世的な社会だ。

 その五歳の誕生日に事故で意識不明になったのだから家族の心配もひとしおだったろう。俺のせいじゃないが、なんかすまん。

 いいとこの坊ちゃんっぽいという第一印象だったが、うちは貴族だった。アベアーラ伯爵家。長男のホレイショ・アーカストン・アベアーラというのが俺の名前だった。アベアーラ伯爵領のマミユーマというのがこのあたりの地名だ。

 貴族の長男ということで五歳から一般教養と体力づくりを兼ねた剣術と魔術の家庭教育が始まるわけであったが、ケガ騒ぎで様子見だったわけだ。ちなみに十歳から学校があり、成人は十五歳だ。学校は農学校、工学校、魔術学校がある。マミマーユは内陸だが海岸部には水産系の海学校もあるようだ。


 礼儀作法は一般教養の初歩みたいなもんで、家族、伯爵領、などの名前はそれで知った。武術はまあ、はじめは体育の授業みたいなもんだな。この世界ならではのことで興味があるのは魔術だ。魔法だよ魔法! 額に傷のような世界か、火水土光闇な属性な世界なのか俺の今の「現実」を調べなければいかん。何せここは電気がなくて蒸気機関もあるのかわからない。船は帆船しかないかもしれない。ある意味そのままスローライフだが、それが最先端だといろいろ苦労しそうだ。


 待望の魔術の授業、先生は伯爵家お抱え魔導士のカーマ先生。赤髪の女性だ。前世でいう二十代後半のキャリアウーマンか。

「ホレイショ様は魔術の才能があるようだから、魔法の勉強も励んでいただきたい」

「先生、僕は魔法をすごく知りたいです。とても興味があります」

「男子は武術が第一とされていますが、魔術にも長けた魔法剣士であればそれは素晴らしいことです。戦いに魔法も使えるように学んでいきましょう」

 やはり戦いが前提か。相手が魔物か人間かわからないが戦いが重要なのだな。それよりも魔法の原理構造が知りたいのだが。

「先生、僕も父さまのような伯爵になるため魔法を役立てたいと思いますけど、それよりも魔法のしくみが知りたいのです」

 そう言うとカーマ先生は切れ長の目を大きく開いていた。

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