邪心の化石

@kamacyo1919

第1話 石

第1章 邪心の化石

第1話 石

“石の事件”。それは、人の手による犯行が不可能と思われる、人為的な一斉自殺や証拠が一切見つからない大量虐殺、地上での溺死に何もないとこでの圧死などといった不可解な殺人事件の名称だ。ここザルベア帝国ではこの10年間にわたり立て続けに石の事件が多発している。

解決済みの石の事件、その数は0だという。なぜ“石”なのかと言えば、それはこのザルベア帝国の歴史と深くかかわるため、ここでは省略させていただく。

とにかく、ザルベア帝国では石の事件が多発しているのだ。

舞台はここ、ザルベア帝国内にある治安の悪い小さな町“コト二ベア”、そんな町のある小さな探偵事務所にて、

彼はエルレト・ワーム。探偵事務所を営んでいる。無能で有名な実績もなければ能力もない。知名度ばかりが高い探偵だ。解決した事件、その数は0だという。

彼は今日もウィードを片手に新聞を読んでいる。


「「世紀の大天才"メレオテヌス"またもや事件解決」かぁ、俺も事件の一つくらい解決してみたいものだなぁ。どこかからやってこないものかねぇ、事件。とは言っても石のは勘弁だけど」


彼は今日も仕事を探すことなく戯言をほざいていた。新聞を読み続けること30分。


「なんなんだこの新聞は?一人の探偵ごときなんかに焦点当てて何週間も同じようなことを書きやがって、羨ましいじゃねぇかよこの野郎。こいつも世紀の大天才とか呼ばれてるならいい加減石の事件の一つくらい解決して見せろよな」


そういって不愉快な気持ちになった彼は、帽子を被り、何かにつられるかのように、気分転換にと町へ足を運んだ。

3月23日現在時刻0時38分。当然町には人一人すらいない。いるとすれば喧嘩をしている酔っ払いと、胡散臭い占い師くらいだ。


「治安が悪いなぁここらへんは、つかなんでこんな真夜中に街歩いてんだ?俺?」


こんな時間に、何故気分転換のために外へ出たのか、彼は自分の行動を不思議に思いながら、その意志とは無関係に淡々と町を歩き進む。

すると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「%$3」


何を言っているのかはさっぱり聞き取ることができないほど小さい声だ。だが不思議とエルレトはその言葉の意味を理解できた。


「なんだ?誰だ?」

「%$3」

「なんだ?、、、何を"拾え"って?」


戸惑いながらあたりを見渡すエルレト。声はまた聞こえてきた。


「””#$」


路地の方から聞こえてきたと感じるエルレト、路地の方へ向かうと石ころが一つ転がっていた。エルレトはウィードの吸い過ぎで幻聴が聞こえたのだろうと思い、その場から立ち去ろうとしたが、

また声が聞こえてきた。


「%#%#$%$&#%」


何を言っているかはわからないが、エルレトは直感的に石を食せばいいのだろうと感じた。そしてエルレトはまるで操られるかのように石を拾う。その石を口へ運ぼうとしたその時。

ウィードの効果が切れたのだろうか?エルレトは気を取り戻し、自分が何故こんなことをしているのだろうと不思議に思い理解できなかった。

手に持っていた石ころに目を向けると、4つ文字が書かれてあることに気が付く。


「"%ワーム"?なんだこれ?」


読めないはずの見たことのない文字、だが不思議なことにエルレトは最初の文字以外は理解できた。エルレトは不思議な石ころに価値があるかもしれないと思い。明日、どこかに売ろうとその石ころを持ち帰った。

そして、事務所に着いたエルレトは眠りにつく。

翌日

3月23日現在時刻5時34分。エルレトの朝は早い。起床後歯を磨き顔を洗う。その後はちょっとした脳みそトレーニングを行い。お腹がすいたら朝食を食べながらウィードを片手に新聞を拝見。

その後は仕事が来ないことをいいことにずっとだらだらと過ごす。これが彼のルーティンだ。だが今日のエルレトは少しばかりそのルーティンから外れた行動をとることにした。

そう。昨晩の石ころだ。彼はあの石ころに何らかの価値があると思い売ろうとしているのだ。


「こいつは絶対に高く売れるぜ。これでしばらくは暮らしていけるな♪」


そう言って彼は帽子を被り、彼の友人が営んでいる雑貨店へとステップを踏みながら足を運んだ。


「エルレっちゃん。今日は上機嫌だね。仕事でも来たのかい?」

「ちげえよ婆さん。これだよこれ。見ろよこれ」

「?なんだい?ただの石ころじゃないか」


この老婆はジャーメイン、ただの婆さんだ。エルレトは雑貨店へと向かう。


「おおエルレト、どうしたんだ?そんな嬉しそうに走って、また売り物を見つけたのか?今度またわしに酒でもおごっておくれよ」


かすれた声で話しかけるのはロウ・ジン。ただのアル中な老いぼれだ。エルレトは雑貨店へと向かう。


「うわ、見ろよエルレトの兄ちゃんがステップ踏んでるぜ」

「こりゃぁもしかすると初の事件解決?とかじゃないか?」

「んなわけないだろ。あのエルレトだぜ」

「じゃぁなんでステップなんて踏んでるんだあいつ?」


うるさい餓鬼の声が聞こえる。彼らはどうやらエルレトが上機嫌にステップを踏んでいることに違和感を覚えていたらしい。彼らだけではなく、町のみんながだ。

というのもエルレトは基本暗い性格で決して上機嫌にステップを踏むようなタイプの人ではないのだ。そのうえ知名度だけはある。町のみんなが不思議がるのも当然だ。

では何故そんなにうれしそうなのかといえば、彼は金欠なのだ。稼ぎ口が少ない無能探偵エルレトにとってはこういった小銭稼ぎが命綱なのだ。

雑貨店に着くエルレト。ドアを開くと、鈴の音と共にちょっとばかり耳障りな青年の声が店内へと鳴り響く。


「ようガルテクト。売りもん持って来たぜ!」


ここはガルテクト雑貨店、何でも置いてあるお店だ。ゴミからダイヤモンド、時には人の頭蓋骨なんかも置いてあるらしい。


「なんだ?今日は上機嫌だなエルレト。事件の一つでも解決したのか?今週は大雪が来るかもな。はは」


皮肉交じりの言葉を返すのはガルテクト雑貨店の店長ガルテクトだ。彼はエルレトの友人、というよりかは親友だ。お互いあまり人とかかわることを好まない性格なため友人が一人しかいないのだ。


「ちげぇよ馬鹿野郎、こいつだよこいつ。見ろよこの石ころ、路地裏で拾ったんだぜ」


エルレトは嬉しそうに昨晩拾った石ころをガルテクトに見せた。


「?何かあるのか?」

「よく見ろよ。文字が彫ってあるんだぜ」

「だからどうしたというんだ?まさか、自分で文字を掘ってこいつはもともと書いてあったとか言って高値で買わせる気か?」


疑うのも当たり前だ。エルレトは不思議な体験をしたからこの石に価値を見出しているのだ。一般人から見たらただの文字が彫られただけの石ころだ。


「違うってマジでもともと書いてあったんだぜ」

「そんなわけあるかよ」


ごもっともだ。


「もしかしたら化石だったりとか?」

「化石の意味わかってないだろお前?それにもしこれが化石だったらなんで路地裏で拾えるんだ?」


エルレトももしかするとただの石ころかもしれない。と一瞬は思ったもののそこは粘りどうにかして買わせようと苦し紛れに交渉を続ける。


「んなこと言わずに試しに確かめてみてくれよぉ」


すると面倒くさそうにガルテクトは答える。


「わかったよ」


石ころを手に取り早速なめるガルテクト


「お前何してんだ!?」


驚くエルレトだが実際化石はなめて調べるものだ。すると


「!?」

「どうした?」


驚くガルテクト。


「これ、、化石だ」

「本当か!?」


そう。あの石ころは化石らしいのだ。妙なことに地上で見つかったはずの石ころが化石だったのだ。


「なぁこれ本当に路地裏で見つけたのか?」

「あぁ、、」


戸惑うガルテクト。


「もしかしたらどっかの考古学者が落としてたとか」


考古学者がこんな治安の悪い町に偶然やってきて偶然路地裏に偶然持っていた化石を偶然落とした確率がどのくらいかはわからないが

何故地上に化石があったのかを説明するのには一番現実的な考えだ。


「にしても何の化石なんだこれ?貝か?あとお前これ、なおさら彫っちゃダメだろ」

「だからもともとなんだって、にしても貝って見た目じゃないだろこれ」


その後話は数分間続き結局なんの化石なのかがわからないためエルレトその日化石を売らずにいったん持ち帰った。

化石を机に置き、エルレトは元のルーティンに戻り、空腹を抑えウィードを片手に新聞を読みながら仕事が来るのを待って椅子に座っていた。


「はぁ、来ないかねぇ、仕事」


相変わらず戯言をほざいているようだ。

新聞を読んでいたエルレト。だが不思議と彼の視線は化石の文字の方へと、向いていた。

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