第4話 心が折れそうです

Q 35歳 女性

公園や運動場、駐車場に設置されているブロンズの裸婦像はなぜあるのでしょうか。

芸術か何か分かりませんが、時代錯誤も甚だしいと思います。

女性が麦わら帽子とブラウスを着て下半身裸や、妙な布をまとわせて奇妙なポーズをさせているなど、悪趣味過ぎます。

世の男性が、あのような体形やファッションを女性に求めている気がして、心が折れそうです。


A

現代人で、裸婦像を賛美する人は少数であることをご説明します。

戦後、平和の象徴として、脱軍国主義を世に広める目的で1951年頃、裸婦像が設置され始めました。それまでは、お馬に乗った軍人像が主流でした。軍人像しかなかった日本に、裸婦像が設置されたことは、軍国主義から民主主義(平和主義)への転換をしたと世界へのアピールでもありました。英国紙「TIME」にも取り上げられたとのことです。政治的な利用とも言えますね。

裸婦像は、彫刻を制作する際に一番難しいモチーフであると言われています。美術を志している人は知っていると思いますが、デッサンの勉強でモチーフとなるのが、ギリシャ彫刻の石膏や女性ヌードです。古い考え方ですが、裸婦像は美の象徴、平和の象徴と思われていたのです。


公共の場に裸婦像を置くことに反対の大人は多かったそうです。日本にはそのような習慣はありませんでしたから。芸術だから、平和の象徴だからと、知識人に押されて広まったようです。軍人像が推し進められてきた背景とやり方は同じでしょう。日本人は、同調圧力が強い民族なので、思考停止のまま、日本全国に広まったのです。大きな美術展では、裸婦像だけを集めて審査することが現代でも行われています。海外から来た現代アーティストが、時代感覚のズレに驚いたという話を聞いたことがあります。裸婦像を彫刻している人たちの中には純粋に美を追求している人、ただ裸婦像が好きなだけの人、様々でしょう。戦後から抜け出せない人であり、時代からは大きく離れていることは知ってほしいですね。


現代においては、裸婦像を制作する人や設置する団体はかなり少数になっています。一度設置した、どこどこの有名な彫刻を撤去するには、労力と費用がかかります。早急な撤去を求めたいですが、事なかれ主義の日本では、しばらく裸婦像はそのままだと思います。

質問者の方の世代で、裸婦像を賛美する男性はかなり少数です。社会を支えている世代に、裸婦像を設置するような人は皆無であることは知っていてください。多分、ほとんどの男性の視界には入っていないと思います。


裸婦像を見ると気分を悪くする人は、日本が歩んできた歴史の一部として見ていただきたいと思います。縄文時代の女性偶像を見ると、人間の思考や習慣、文化の壮大な過程や歴史を見るような、温かな視点をもたれるのではないでしょうか。路上の裸婦像も、そのように捉えていただければ、見方も和らぐのではと思います。

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