第28話 魔狼。

 真っ黒なその狼は禍々しい牙を剥いて。

 あたしを見てグルルルッと一度唸るとそのまま飛びかかってきた。


「躊躇なしか!」

 フニウがそう上空に逃げる。

 あたしも逃げようと背にアウラの羽を伸ばし、そのまま上空に避けた。

 足元ギリギリのところまでジャンプしてきたその魔狼はガチンと牙を噛んで、そのまま地上へと落ちていった。


「マジカルレイヤー!」

 あたしはそう唱えると戦闘モードに変身する。

 身体の表面を覆っていく金色の膜。自分自身のマトリクスをもう一枚自分に被せることで、あたしの防御力は通常の何倍にも跳ね上がる。


 お母様とお揃いのピンクの魔法少女コスチュームを身に纏ったあたし。

 白銀のティアラが額に嵌り、変身完了だ。


 普通、通常の人の肌は魔法による熱にも風のヤイバにも耐えることはできない。

 すぐやけどしちゃうし皮膚なんか簡単に切れてしまう。

 ううん、やけどで済めば御の字だ。

 皮膚が炭化してしまったりサクッと切れてしまったりするのはちょっと耐えられないよね。


 だからこそのこの魔法少女コスチュームだし肌を守るマトリクスなのだ。


 自分の周囲にマナの膜を作り、そこに変身したいと願うマトリクスを描く。

 そうしたレイヤーを自身に纏うことで、より強く、強靭な肉体が手に入るの。


 あたしはピンクのフリフリの衣装を纏い、背には真っ白なアウラフェザーの翼を背負って。

 そして。

 お気に入りの魔法のステッキを手に。


「いっくよー!」


 そう掛け声をあげ魔狼に向かって一直線に飛んだ。


 ステッキにはマナを溜め炎の天使アークを呼ぶ。


「アークイレイザーアタック!!」


 手加減はいらない。あたしは思いっきりの魔力をその魔狼のお腹に叩き込んだ。





 ガツン!!


 魔狼のお腹を抉るように弾けるアークの塊。


「やった?」


 油断しないよう緊張は残し、そのままステップを切り返すあたし。


 一瞬目を離した隙にその魔狼は霧散し、そしてまた別の場所に移動しようとしていた。



「ルリア! 右!」


 フニウの叫び声にそのままステッキで右手側を薙ぎ払う。

 アークの火が炎となって周囲に広がり。

 そして。


 漆黒の靄を焼き払う。


 ぷすぷすと、焼けた靄の匂いだけが周囲に充満した。




「やった?」


「うん。なんとか焼き払えたみたい」


 ふう。いきなりあんなのが現れたからちょっとびっくりしたけど、それでもそんなに大したことはなかったよね。


「まあね。ルリアも随分強くなったよね」


「えへへ。そかな」


「今日のところは褒めてあげる。まあたまにはね?」


「もう。素直に褒めてくれればいいのに」


 そんな風にフニウと戯れていたその時。





「ルリア・フローレンシアなのか?」


 背後からそう絞り出したような声がした。


「カウラス、さん?」


 そこにはーー


 白銀の髪を揺らしたカウラス・カエサルがそこに居た。

 間違いなく、ジルベール殿下じゃない方の。

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