第23話

 そして村重の近親者は京都に連行され16日に京都市内を引き回された上、六条河原で処刑された。村重の側室だけは肌に死に装束の経帽子、その上には色よい小袖の美しい装いをし逃れられない運命を悟り、少しも取り乱さず神好であった。

 都人は 上様の仕打ちに恐怖し、尼崎城、花熊城も籠城を続けた。 上様の仕打ちは、逆効果であった。  

 天正6年11月 上様が建造した 鉄甲船が毛利水軍を撃破した。 難波湾の制海権は織田家に移り、 本願寺は名目上は完全な包囲下に陥った。

  しかし、それでも本願寺は落ちなかった。すでに2年以上も籠城を続ける本願寺ではあったが、士気は衰えていなかった。 逆に上様のひどい仕打ちに、畿内の人々は内心で本願寺を応援する者まで現れた。

 佐久間信盛は畿内の武将を与力として任され、彼らの慰問に努めた 。畿内の武将にこれ以上叛かれたら、 ますます織田家は苦境に陥る。信盛は畿内の武将で流行っている茶の湯を暇さえあれば開催し、武将たちの結束を固めた。

 信盛は、 嫡男の信栄も茶の湯に誘い二人で茶道を極めていった。 道具の使い方、 掛物や花の選び方、季節に応じた客のもてなし方。それらを会得するため、 千宗易をはじめ、今井宗久、津田宗及ら 当代一流と呼ばれる茶人たちの茶会に 足繁く通い詰めた。

 彼らには打算もあった。 あと10年もすれば、天下は上様によって平定される。戦がなくなれば、武辺や用兵の才など無用の長物となる。 それどころか、狡兎死して走狗烹らるの例え通り、身を危うくしかねない。太平となった天下で生き延びるには、何か別の才が必要となる。彼らにとって茶の湯とは、今後の織田家で生き延びるために必要な技能に他ならなかった。

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