三つ巴

 修道シスター服姿な桜先輩は商用車バン背面ドアバックハッチを開け放ち、抜身の『聖剣』を片手に仁王立ちしていた。

 後続の『赤き豹』――井筒いづつにも、その意図は伝わっただろう。これより先は、剣にかけて通さないと。

 それで怒り狂うかと思いきや、しかし、不敵にも井筒いづつは高笑いを上げる。

 興奮を抑えきれなくなった? これから起きるであろう死闘を前に?


 いまさらだが井筒いづつは、肉体強化系の異能力者だ。もう力こそパワーを地で行く。

 つまり、シンプル過ぎて有効な対処法を思い付けないほど単純に強い。

 対するに桜先輩は、いまも手に持つ『聖剣』を具現化の異能だ。……オープニング・ムービーの印象からだと、おそらくは特殊な力をも付与して?

 さらに限定的ながら本人あるいは協力者が、魔術?すら使いこなすらしい。

 不明な能力も加味すれば、攻守にバランスの取れた、前衛よりのオールラウンダーと推察できる。

 しかし、酷い話もあったものだった。これは、つまり……――


 第一章ボスと後半ボスの喧嘩へ介入だろう、物事を単純化してしまえば!


 さらに二人を倒したら駄目というか――

 少なくとも井筒いづつは、この後でかしら堅固けんごと戦わさせねばならない。それがクリア・ルートなはずだし。

 よって大怪我はもちろん、罷り間違って正気に戻したりもNGとなる。

 そして桜先輩にもシナリオ上の役割があるだろうから、後々まで響く怪我など負わせれない。

 また、こちらの都合なんて桜先輩や井筒いづつは考慮してくれ無さそうだから、二人のことを二人から守ってやらねばならなかった。


 ……難しければ良作ってものじゃない! 最低限、クリア可能にしてくれ!


 しかし、そんな俺の不平不満など聞く耳持たぬとばかり、桜先輩と井筒いづつは無頓着に間合いを詰めていく!

 待って! タンマ! 止めて!

 お前らが本気ガチりあったら、秒で決着しちゃうだろうが! どっちが勝つにしろ!

 慌てて相棒マイコゥ排気音シャウトで注意を惹きながら、拳銃P320を二人へお見舞いする。

 高速で疾走中なバイクからだろうと、きちんと両手で保持ホールドすれば、俺でも命中させられなくもない。

 が、煩わしそうな桜先輩には『聖剣』で全て弾き返されてしまう。

 井筒いづつに至っては、こちらへ握り拳を開いてみせたかと思ったら……そこから何発もの弾丸が零れ落ちていく。

 ……化物共めッ!

 どうやら通常弾だと、急所を直撃でもしなければ効果を望めそうにない。となれば勝負所は接近戦クロスレンジか。


 え? 高速道路でバイクの手放し運転、それも銃を乱射しながらなんて……あぶないがデカい?

 その御心配は無用だ。一介の高校生に過ぎない俺が、そこまでダンディなはずもない。

 ただ能力なしノー・アビリティ注目に値しないノー・ノタビリティな俺の霊体でも――ノノビリティでも、腕が四本という恩恵には与れる。……たとえば銃を両手で扱いながら、やはり両手でバイクを駆ったりを。


 挑戦状代わりと相棒マイコゥに高音域の排気音シャウトを叫ばせる。

 そのまま距離を詰めつつ空になった弾倉マガジン弾倉止めリリースボタンで落し、赤く印をつけたものと入れ替えておく。

 ……相手が相手だし、最初から強装弾にしておくべきだったか。

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