下見する者、それを見張る者

「ホゥー……―― アォッ! フォー……―― ポゥッ! フゥーッ!」

 ……どうして相棒マイコゥのエンジン音は、喘ぎ声みたいなんだッ!? シフトチェンジする度に叫ぶしッ!

 しかし、さすがは側先ガワサキ技研の誇る名車だ。余裕の加速で、馬力が違う。中型クラス最速の名は伊達じゃない。

 ちょっとオイル漏れは気になるけど、それは入ってる証拠でもあるし。

「こちらしずく。予定通りに群玉環状高速へ入った。……聞こえてるか?」

「聞こえてますよ。私は今から、予定通りビルの屋上へ上がります」

 携帯へ繋いだヘッドセットインカムからは、不満げな菜子なのこの声が聞こえた。

 現場から遠ざけられてるのが気に入らないのだろう。

 でも、下手したら時速百キロ超という速度域での立ち回りだ。とてもじゃないけど二人乗りなんてしてられない。

「そろそろ監視ポイント前を通過する。他のは確認できるか?」

「少し待って下さい。この双眼鏡の調節が……なんでか……上手くいかなくて……」

「……壊すなよ? それ結構な値段すんだからな?」

 とはいえ普通の女子中学生に、可視光増幅方式スターライト双眼鏡は手に余るか。それも禁輸品な軍事仕様では。

「調節できました! ――ってッ! これ凄く奇麗に星が見えます!」

「あーとーにーしーろー!」

「ちょっと細かくないですか、しずくさんは? あっ! そんなことより! 教会の商用車バンが! ナンバー・プレートも控えと一致します!」

 ……どういうことだろう?

 桜先輩や菜子なのこを養護した『教会』は、この『赤き豹』と関りがある?

 それとも桜先輩も『次章予告』を夢に見て?

 だとしたら条件は『異能に覚醒している』辺りだろうけど、それはそれで『なぜ首を突っ込んでくるのか?』という謎が残る。

「……本当に……しずくさんは……なにか秘密を知っているんですね」

 そして菜子なのこは、やっと俺を信用する気になったようだった。

 疑い深いと思われるかもしれないが、これは俺の方にも問題がある。

 ゲーム世界へ転生なんて事情を説明できやしなかったし、そもそも俺自身からにして知らないことの方が多い。

 互いに協力させつつ、懐柔し、それでいて監視対象……残念ながら信頼関係にあるとはいえない感じだ。

「教会の商用車バンが見えてきた。うん? 妙なハーレーも発見! そろそろ監視ポイント前を通過する! 写真を撮っといてくれ!」

「ハー……レー……? 車ですか、それ?」

「バイクだよ! バイク! 超大型の! おそらく教会の商用車バンを尾行している。搭乗者は女。ヘルメットに金髪を入れきれてない」

 そのクラシカルで独特なシルエットは、まるで公道へ君臨するかのようだった。

 ……ここにきて、さらなる勢力の参入か。分かっていたことだけど、一筋縄にいきそうもない。

 しかし、考えをまとめる暇すら与えられず――

しずくさん! 人です! 人が走って追いかけて来てます! そんな! あり得ない! あの人、車より速いです!?」

 と事態は動き続ける!

 バックミラーに映った井筒いづつは――赤き豹は、みるみる間に大きくなっていく!

 負けじと教会の商用車バンも加速するが、なんと瞬殺だ。一瞬で追い抜かれる。

 俺だって辛うじて並走はできてるものの、この速度では曲がれそうにない!

 これは介入するとしても、直線ストレートでタイミングを合わせてか!?

 カーブへ差し掛かる前にスロットを緩めながら、あまりの速度差に慄く。

 そのまま跨道橋を――環状高速を跨ぐように掛けられた歩道橋を通過する際、かしら堅固けんごの驚く姿も確認できた。

 幼馴染の出演する変な夢を、念の為に確認に来たところか。……残念ながらガチ――正夢なんだぜ?


 どうやら役者だけは揃いつつあった。……招かざる出演者ばっかりだけど。


書き貯め分が終わりました!

続きは、また貯まったら再開します!

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