霊体

 その夜、幽霊の俺霊体について調べてみた。

 どう説明すればよいのか分からないけど、とにかく俺が念じればすぐに幽霊の俺霊体は出現した。

 背格好は俺と全く同じ。ただ顔だけは別人――なんと俺の前世そのままだ。

 そして意外なことに、服装が固定されていない。

 初めて出現させた時は制服だったのに、いまは病院お仕着せのガウン姿だ。

 疑問に思って裸で呼び出してみると、案の定、幽霊の俺霊体も裸で出てくる。

 もう便利なんだか、それとも律義なんだか理解に苦しむ。

 どうしてか霊体は、同じ異能者だけにしかえないはずだ。なので服装が変化しても意味ないのに。


 また奇怪なことに幽霊の俺霊体を動かす際、全く不自由は感じない。

 精神が一つなまま身体二つを同時かつ整然と動かせれる!

 これは情報収集の面でもだ。

 肉体の俺が見たり聞いたりしたのと幽霊の俺霊体が得ている情報が、錯綜して困惑することはない。

 それでいて同時に情報を共有できる。

 まるで一心同体な別人ならぬ人が増えたかのようだ。

 ……これはの基本にして必須な才能だったり?


 そして基本能力といえば、いわばモードとでもいうべき状態が選べた。

 一つ目は、名付けるならば透過状態――あらゆる物質に干渉されず、また干渉もしないモードだ。

 なんと、この状態だと重力に逆らって浮かび上がることすらできる。

 しかし、何もかもを透過させる状態のくせに、壁は抜けられなかった。

 頑張ってもガラス窓や薄い板を通り抜けるのが限界で、壁などからは無理だ。もう理解してしまえる。


 もう一つが物理干渉――幽霊の俺霊体で物を触ったり動かしたりできるモードだ。

 こうなると正しく超能力であり、定番手品レベルなら、ほとんど再現できる。……絶対に視認されない黒子がいるんだから、その応用範囲は無限にも等しいだろう。

 ただ両方向性もあって――見えないだけで相手からも触れるから、注意は必要そうだ。

 ……不都合な接触だけを透過モードで往なすのも、それなりに慣れは必要だろうし。

 また物理干渉モードでは、宙に浮いていられない。重力に引っ張られてしまう。

 なので透過モードで宙に浮いてから、物理干渉モードになって肉体を引き上げる――つまり、俺自身が空中浮遊なんてのは不可能だ。

 トラックを避けた時、まず木の枝を掴んでから引っ張り上げようとしたのは、大正解だったといえる。


 そして残念なことに肉体から五歩――三メートルほど離れると、霊体は存在を維持できなくなった。

 また軽く霊体を殴ってみた結果、傷みは肉体へと伝わる。……おそらくダメージもだろう。

 いくら前世の俺そっくりといっても、結局のところ異能力であり、全ての中心は今の俺自身ということか?

 これは分類すれば近距離で霊体型な異能力ということで、まあ、そこまで悲観しなくてもいい。

 問題は、なんの特技も無いことだろう。

 ただでさえ異能として霊体型は弱い方なのに、特技が無いのは大問題だ! 特技こそが長所といえる霊体型で!

 同じ霊体型異能のなんかは、霊体そのものがオリンピックのメダリスト級な身体能力を持つ上に、特技が作中でもトップクラスにチート噴飯ものだし!

 あれに比べたら近距離無能型な俺の霊体なんて、正しく雑魚でしかない。

 そして霊体型でない異能力者たちに至っては、そのたちですら一筋縄で対処できなかった。


 ……踏まえると、非常に拙い事態といえる。

 なぜなら物語の発端にして最重要イベント、主人公の異能力覚醒――つまりは『暴走トラックに異世界へ転生されそうになる』を、俺が体験してしまったからだ!

 このままじゃ最強無敵のが何とかしてくれない!

 そして次のフラグを立て損ねたら、核だ! でも、覚醒してない主人公に、どうやって成功させれば!?

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