第25話 怒れる美少女と優しい一面の美女

「もしもーし。おーい、チビ助く〜ん? 大丈夫〜? 意識ある〜?」


 ぺちぺちと、目の焦点がはっきりしない数馬の両頬を優しく叩きながら呼びかけるミリア。

 その声は心配する声でもありながら、面白そうなおもちゃを直そうとしてる子供のような声でもあった。


 彼女にとって、写真部の部長である宮内ミリアにとって、藤宮数馬はそう言う対象なのだ。

 しかし、そんな事は部活に入ってる数馬本人が一番よく知っている。

 まぁ、知っているイコール即座に対応できるというわけではないが。

「……あっ、ご、ごめんなさい、ぼーっとしてました」

「しっかりしてよね〜? 美しい私の姿を余すとこなく撮ってもらわなきゃ困るんだから」

「余すとこなくって……さっきのみたいの、ですか……?」


 数馬が思い浮かべたのは、少し前の大股を広げてブルマを見せつけるような格好のミリア。

 即座に耳を赤くしては、下に目を逸らす数馬。

 それでも逃げ出そうとしない後輩に、ミリアは

「そうよ〜? 男の子は好きでしょ、さっきの」

 と、煽るように質問をした。

 だが、数馬はこの手の質問には慣れており、それだけでなく自身の立場をよくわかっていた。

 そんな彼が放った質問への答えは

「好きか嫌いかで言われれば、好きではありますが……」

 と、正直に話す事だった。

 数馬の返答が、ミリアにとって予想外だったのか、少し驚いた表情をしつつも

「ならいいじゃない。小悪魔ちゃんの事は気にしないでさ」

 そう言って、話の続きを促す。


 が、流石に自分の話題を持ち出されては黙っていられないのだろう。

「流石に私の事は気にして欲しいんですが」

 不満気に二人の会話に割り込む千尋。

 しかし、千尋に話を振らなかったのはミリアなりに配慮しての事だった。

「だって、小悪魔ちゃんってば耳真っ赤にしながら顔を伏せてるから」

「部長がはしたない格好をしたからですよ!!!」

「あんなので顔を伏せちゃうなんて、初心なんだから〜」

「うるさいです!」

 ツンツンとミリアに脇腹を突かれ笑いをこらえながら、恥ずかしさを吹き飛ばすように怒りのエネルギーを声にして吐き出す千尋。


 同学年の男子にチヤホヤされ、一つ上の先輩に生意気な態度を取っている自分が、実は性的な事には臆病である事を自覚させられたのだから、そりゃ怒りたくなる。

 そしてその怒りの矛先は理不尽にも数馬へと向かう。

「藤宮先輩もです! 私がいるのに、エッチな話題を広げないでください!!」

「宮内先輩に聞かれた事を答えただけなんだけど……」

 どうして俺までと言いたげな表情の数馬だが、それを見ても尚、千尋は止まらない。

「それでもです! もう少し、その……誤魔化しようがあったのに!!」

 とにかく、誰かにでも当たらないと気が済まないのだろう。

 自分の弱みが結果的にバレてしまう事になったのだから。

 気が動転して、誰かれ構わずぶつけたくなってしまったのだろう。


 だが、相手が悪かった。

 数馬ではない。ミリアに怒りの矛先を向けていた事で、急速に収束させられる事になる。

「まぁまぁ、そんなにチビ助くんを責めちゃダメよ。せっかく私の質問に嘘偽りなく答えてくれたのに可哀想でしょ?」

「うぐぐ……」

 脇腹に手を当てられ、そのままグイッとミリアの体に千尋の小さな体が引き寄せられた。

 そして千尋の耳がミリアの口元へと。

 ニヤリと、良からぬ事を考えている事が丸わかりな程に口角をあげられたミリアの口元へと。

 まもなくして、ミリアの口が開き、声が発せられた。

「まだ色々言うなら、チビ助くんの前でメチャクチャにしてあげてもいいけど〜?」

 と、数馬に聞こえないように小さな声が。

「それは……困ります……」

「なら、あとは分かるわね? 大丈夫よ、本当にもう少しで解放してあげるから」

 弱々しい千尋の声を聞き届けると共に、安心させるように優しい声を出す。


 が、それはすぐに数馬へ向ける妖しい声へと切り替わる。

「さ、チビ助くん。体調辛いだろうけど、もう一踏ん張りよ! そしたら、ちゃんとご褒美あげるから。今回みたいなものじゃなく、ちゃんとしたご褒美を、ね」

 と、カバンに入った四組のとある施設のチケットに気を向けながら。

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