第13話 そして再会へ

 時は少しだけ遡り、ミリアが一香に数馬に恋愛感情を抱いていると明かした頃、噂の本人は後輩である千尋と共に森の奥で、写真撮影に励んでいた。


「おぉぉ、こりゃいいや〜〜! おっ、こっちも!!」


 真横にいる可愛い可愛い後輩に見向きもせず、空を飛ぶ小鳥や、風に靡く木々に興奮しながら。

「……この仕打ち、絶対に忘れませんからね、藤宮先輩」

 自らの可愛さに絶対の自信を持つ千尋にとって、小鳥や木々に興奮する数馬の姿は屈辱以外の何物でも無かった。

 そしてこの彼女が受けた屈辱は次回の写真部活動に持ち越される。


 何という循環機構!

 千尋が数馬にストレスを生み出し、数馬は千尋からのストレスを森で発散。

 そしてその森で千尋にストレスが生まれ、数馬にストレスをぶつける。

 悪循環にもほどがある。


 もっとも、数馬は一香で多少なりとも解消しているものがあれば、千尋もまた学年のアイドル的存在故にチヤホヤされる事で心の平穏を保っている。

 それが当人達にとって最善かどうかは別にして、今の関係を嫌なものだとは思っては無いようだ。



 そんな二人だが、いつまでたっても森の奥にやってこない一香とミリアに異変を覚えたのだろう。

「先輩たち遅いですね」

 と、心配そうな口調で数馬に確認を意を取る千尋。

 千尋の確認に数馬は、先輩らしくキメ顔で───

「んー、そうかー?」

 訂正。

 千尋の確認に数馬は、先輩の威厳とかどうでもよくなるくらいに全くもって興味なさげな返答をする。

 それはもう、清々しく。

 千尋の方では無く、カメラのレンズ越しに複雑に絡まれた木々を見つめて。


「んー、そうかー? じゃないですよ! かれこれ10分くらい先輩のお気に入りスポットにいますけど、部長達いつまでたっても来ないじゃないですか」


 流石の千尋も、先輩だからと遠慮する事なく数馬の頭を引っ叩き、簡潔かつ分かりやすく現状を説明する。


「まぁ、確かにそうだけど、のんびり周りを見たい時だってあるんじゃないのか?」

 千尋に頭を引っ叩かれた事で、過剰に集中していたものが途切れ正常時に戻った数馬は、自分なりの考えを口にする。



「……藤宮先輩もしかして気づいてないんですか?」

「ん? 何をだ?」

 あまりにも周りが見えていない数馬の考えに千尋は唖然とする。

 そしてその唖然とする千尋に数馬はわけがわからずキョトンとする。


 その反応に「あぁ、本当に気づいてないんだこの人」と呟きながら呆れる千尋。

「長柄先輩、体調悪いみたいですよ?」

「……それ、本当か?」

「え、ええ……。珍しく部長に寄りかかってましたし───って、先輩! 写真はもういいんですか!?」

「一香が大変な時に写真なんかとってられるか!!」

 突如として森の入り口の方へと駆け出し始める数馬。デジカメの確認をそこそこに、彼は一目散に幼馴染である一香の元へと向かう。



「さっきまで見向きもしなかったじゃないですか!!! なんなんですか急に!!」

 数馬の後を追うように、千尋もまた森の入り口へと足元が不安定な中、駆けていた。

 それも半分怒りながら。何に怒っているのかは本人のみぞ知るところだ。


 そんな後輩の怒り声に数馬もまた怒り声で返す。主に自分に。

「そりゃ、幼馴染が体調悪いって聞いたらいてもたってもいられなくなるだろ!」

「さっきまで気づきもしなかった人が言いますか、それ」

「楽しかったんだから仕方ないだろ!!!」

「開き直んないで下さい!!」



 自虐。あまりにも反応に困る自虐。

 しかし、そのやりとりをする事で数馬はそのエネルギーを前進する力に変えていく。

 そして千尋もまた、数馬とのくだらないやりとりによって、活力が湧いていく。


 好循環。よくわからないまでの好循環。

 このまま、この二人の関係が平和的であればいいのにと、本人達が思ったり思わなかったり。

 そんな雰囲気のまま、二人はあっという間に森の入口へ。



「一香!! 大丈夫か!?」

 ミリアに抱きかかえられた幼馴染を見るや否や、後ろにぴったりとついていた千尋を引き離し、一香の元へと駆け寄った。


「…………また、この痛みか」

 一人悲しんでいる、赤髪の少女の事を気にする事なく。


 そしてその様子を、銀髪ハーフの先輩が見ている事も、気づく由も無かった。

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