第6話 泣いてないでしっかり、最期を見ろ。

「ん……」


 その時、死亡確認をされてここに横たえられていた政明が……。


──呼吸を始めた。


「おじいちゃん……?」

 未来は目の前で見ている光景が信じられずに、政明に声をかけた。


「ウメを置いて先に逝くわけにゃいかんな」

 政明ははっきりとした口調で言う。


「おばあちゃん……?」

 未来はウメに話しかけた。

 死んだはずの政明が生きていたのだ。どうしても今、寝ているウメを起こしてでも伝えたかった。

「おばあちゃん!」


 ウメは目を覚さない。

「未来……」

 好美がそっと、座っている未来の肩に両手を乗せた。

「え……? 嘘……さっきまでおばあちゃん歩いてたじゃん!」

「未来、夢でも見てたの? おばあちゃんのことは、もう見守ることしかできないのよ」

 未来の目からは涙が溢れていた。


 その時、目を覚さなかったウメの口元が動いた。

 ウメはニコッとわらって、入れ歯を外された口で言う。


「未来ちゃん、泣いてないで、しっかりばあちゃんの最期を見なさい。今しか見られないんだからねぇ」


 未来はその言葉を聞いて、また泣いた。



 ウメは、未来が頷いたのを確認して、スッと意識を遠くへやった。

 笑っていた口元から力が抜け、ウメの魂は天井を突き抜けて、高く高く空へ昇っていった。


「おばあちゃん」

「ふ……」

 未来がウメのことを呼んだ時、窓側のベッドで横たわっていた政明が小さく笑った。


「おじいちゃん……?」

 ウメの魂がまだウメの身体に宿っていた時、政明は死亡を確認されたはずだ。その政明が生き還ったことをウメに伝えようとしたら、さっきまで元気だったウメが生死の間を彷徨っていたのである。

 未来にとっては、もう意味がわからない。


「ウメ、今、行くよ」

 政明は、未来が見たことのないような優しい顔で、ウメに語りかけていた。

 愛するウメが天国に旅立つのを見送って、政明も再び……。


 ──息をすることをやめた。


「おじいちゃん……!」

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