第41話 実家での阿鼻叫喚

 「ねぇ、これ。蜂蜜そのまま舐めたよね?」


 ピクピクと痙攣している家族を見下ろしながら、懸命に介助している執事やメイド達に声を掛ける。


 「わ、私はお嬢様に注意された事は伝えたのですが……」

 冷や汗を垂らしながら件の執事は返答する。


 「まぁ、大方それを無視してイっちゃったんでしょうけど。想像出来るわ、特にパパンとお姉さまは。」



 「おっしゃる通りでございます。」

 執事の男は頭を下げて苦渋の表情で答えた。


 「全く……回復っと。」

 レティシアを中心に屋敷中に金色の光が一帯を覆った。

 家族たちの表情が和らいでいく。

 執事達の心労も一緒に……


 「うっ……私達は一体。」


 「あまりの甘さに脳が震えて……」


 横から小指に掬って舐めただけだと執事は説明する。


 「あれは流石に商品化するわけにはいかなそうですね。失神者は確実ですし、中毒者も出そうですし。」

 レティシアは商品化を諦め、アトリエだけで消費しようかと思案する。

 元々そんなに多くの量は取れないけれど、アトリエのメンバーだけで消費するには多い。


 「まぁ、王家に献上するくらいだろうね。」

 兄・ライティースが苦し紛れに代案を捻出する。



 執事やメイドに看病され、全員が食道の席に着いた。


 「それにしても、どうして用法容量を守らないのかしら。執事には注意事項を伝えて、その執事からも注意されていたでしょうに。」


 「だって、シアが作ったと聞いたらいてもたっていられなかったんだもん。」


 「だってとかだもんって……中年男性、しかも領主の言う言葉じゃありませんよっ。」

 中年と言われてショックを受ける父・レオナルド。


 二人の母親は面目ないと頭を垂れる。

 兄や姉はそれに続いていた。




 「そ、それはそうと……シア。そのシアの膝に乗ってる幼女は誰だい?」

 ライティースが頬に冷や汗を垂らしてそうな表情で尋ねる。


 「はい?あぁ……」

 レティシアが言い淀んでいると。


 「ままー。」

 ラウネがレティシアを見上げて答えた。


 「ま……」×多数

 「まま……」×多数


 「な、なんですとぉ!」×男性陣

 「な、なんですってぇ!」×女性陣


 再び全員が何かのコントのように椅子から後ろに転げ落ちた。


 「あ、なんかめんどくさそうな予感、回復っと。」


 レティシアの回復により数分前のように全員が椅子に座る。

 そしてレティシアはラウネのこれまでを完結に説明する。



 「と、いうわけなの。わかりました?それとラウネもこんないたずらしたらだめだよ。」


 「うん。わかった。」


 「でもまぁ、娘というか妹みたいな存在というのは否定しませんけどね。」



 複雑そうな顔をしている家族であるが、レティシアの説明に一応の理解は示す。

 問題は魔物ということだけれど……


 「シアに懐いてるし可愛いから良いか。」

 家督であるレオナルドが決めたので満場一致でなくとも決定となる。

 実際反対している者はいない。


 「ところで……エクリプスお兄様とネアルコの姿が見えませんが?」

 家族や使用人を見渡し、足りない人物がいる事に疑問を示した。


 「あぁ、マルデヴィエントの調査に向かわせておる。場合によっては魔物の間引きという名の修行も兼ねておる。」

 レオナルドは魔物の増加が何かの予兆と踏んで調査及び応援を決めていた。

 流石に領主であるため自分では行けないため、息子の成長のためにと二人を100人の領兵と共に派遣した。

 

 まだ派遣したばかりなのでマルデヴィエントには到着していないだろう。

 叔父と合流して、領から森の浅層を調査する予定だという。

 場合によっては深層まで行く事も想定している。



 「それはそうとあの蜂蜜は何かしら。」

 もう一人の母・マリアベルが問いかける。


 「あぁ、庭に植えたユグドラシルの木にクイーンハニービーの素を作ってもらって、私が出した水でアルラウネのラウネが管理してたらああなりました。」


 全員の時が止まった。


 


 何度目かの回復からの立ち直りを経過し、再び納得をする家族達。

 

 「そういや最近神聖な気が漂ってるなとは思ったんだよ。」

 ライティースが納得したという表情で言った。


 「お姉さま?それも説明していただけるのかしら?」

 三女・アイゼンフートがついに言葉を発する。

 先程からラウネを見る目が……


 「かくかくしかじか。」

 レティシアはラウネの時と同じく、ユグドラシルを入手するまでの経緯を話す。

 ついでにエロフとオークの働き手の事や、南東から南西への開拓の事まで。


 「森を開拓するのは構わんが、魔物……引いては反対側の魔族を挑発はしないようにな。」

 レオナルドはレティシアの話を聞いて答える。

 互いに利点がないから侵攻しないだけで、何かのきっかけで均衡が崩れないともなりかねない。

 


 「一応例のトレントの所と、南東の門を出たところから街道を建設しておりますが、結界で覆いますので。」



 「あぁ……あの入れないやつな。」

 レオナルドはいつかのベルンスト家当主ジョニーが領内に入れなかった時の事を思い出した。


 

 「報告書には纏めますので後日報告します。エロフ……もといエルフの里まで繋がれば南側の憂いも減りますしね。」

 レティシアは魔物はともかく魔族についてはそこまで嫌悪を抱いていない。

 他者を害するという意味では人も魔族も変わらない。

 領土拡大と称しては他領や他国を侵略するし、誰のものでもないものは自らのものにしようとする。

 魔物とは狩って狩られてのある意味共存だとも思っている。


 自分達の街、領が安泰であればそれで良いと思うのは、ある程度の領地持ちの考えとしては普通とも言えた。


 誰もが手をつけたくない魔族との境の森。

 ここを開拓して自領を豊にするという分には、自然の大幅な破壊さえしないならば発展には必要な事柄であった。


 フラベル家でなければ、開拓などしようとはしないだろうけれど。


 森に住まう魔物はピンからキリまで存在する。

 ダンジョンとは違い、時として人の生活圏を脅かす。

 必要以上に狩ると生態系を崩し、場合によっては更なる混乱や恐怖を生みかねない。

 上手い事見極めるのも時には必要となってくる。


 エルフの結界や魔法、自然との対話はそんな森の様子を把握するには丁度良い防波堤ともなる。

 少なくとも、未開拓だった頃の国民はそう考えている。



 「とりあえず、蜂蜜は一定量とれたら実家にも送りますから、用法は守ってくださいね。私がいたから即復活出来ましたけど、いなければまだ唸っているはずですからね。」



 レティシアの言葉に一同は頷いた。

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